がん(cancer) †
国内の死因の3分の1を占め、現在も増加傾向にあると言われる遺伝子異常による疾患。*1
症状は、細胞が無秩序な増殖を繰り返し、周囲の組織や他の組織にまで侵入(浸潤)し、自他の組織を破壊する悪性腫瘍となる。
がん細胞は、ATPを常に解糖系で生成しており、大量の乳酸を生じさせる(ワールブルク効果)。また、浸潤や転移を行うために、基底膜のメラニンやコラーゲンを分解するための酵素の活性が高くなっている。*2*3
がん細胞自体は1日5000個程度生まれていると考えられているが、生体の免疫によってがん細胞は排除されている。*4
がんは単一の細胞に由来する疾患であるが、進展する過程で様々なゲノム異常を蓄積しながら不均一な細胞集団となり治療抵抗性?を得ることが知られている。*5
がんに関わる言葉の区別 †
厳密には「がん = 悪性腫瘍」ではない。また「がん」と漢字の「癌」では厳密な意味が異なる。漢字で癌と書いた場合、血液がん以外のものの上皮細胞由来のがんのことを指す。つまり、固形がんのほとんどは癌である。*6
がんという語はほぼ悪性腫瘍と同義としてもちいられる。しかし悪性腫瘍とがんを同じ意味で使う事には異論もある。なぜなら腫瘍という言葉は塊(固形がん)を表しているが、白血病などの一部のがんは塊を作らない場合があるからである。またがんは悪性新生物とも呼ばれる。これはmalignant「悪性の」、neo「新しく」、plasm「形成されたもの」を意味する。
がんには(漢字の)癌(=癌腫)、肉腫、白血病および悪性リンパ腫等が含まれる。一方、漢字の癌は癌腫と同じ意味であり、肉腫や白血病等は含まれない。*7
がんの原因 †
細胞内のDNA(遺伝子)の突然変異により発生する。最も多い遺伝子の変異は点突然変異。
“がん”は、イニシエーション、プロモーションなどの複数の段階を経て発生すると考えられています。がんの始まりは1個の細胞の遺伝子の突然変異ですが、それが“がん”へと成長するまでには複数の遺伝子の突然変異が関係しています。遺伝毒性発がん物質は、このがんの発生過程で重要な役割を果たす遺伝子の突然変異を引き起こすため、どんなに少ない量でも発がんの原因となると考えられており、本来であれば食品のように人が摂取するものに含まれるべきものではありません。*8
したがって、細胞分裂が行われる以上、がん細胞の発生を完全に無くすことはできない。発がん性のある物質や放射線などを避けることによって発生率を低くすることはできる。
しかし、全ての遺伝子の異常ががんの原因となるわけではない。また、通常は細胞に異常が起こった時にはアポトーシスによる細胞死が起こり、異常な遺伝子は排除される仕組みが備わっている。細胞の増殖や分裂に関わる遺伝子に異常が起き、かつアポトーシスに関わる遺伝子が異常を起こすことでがん化が進むと考えられている。*9
がんが発症するには、複数のがん遺伝子およびがん抑制遺伝子に突然変異が蓄積する必要があり、これには20年以上の歳月を要するとされる。*10
遺伝子変異の原因 †
全体的な傾向としては、男性のがんの罹患率および死亡率は女性の約1.5倍である。年齢別に見ると、54歳以下では女性の方が多く、30代だけを見ると女性は男性の3倍の患者数となる。これは、性ホルモンの影響および生活習慣の違いなどが影響することが示唆されている。
主に生活習慣による影響が大きく、実際に結婚後長い時間を暮らす夫婦は同じがんにかかりやすい傾向がある。
具体的には、以下の事柄ががんの発生原因の半分以上に関わる。*11
世界で初めて発がん性物質ががんを引き起こすことを実証したのは山極勝三郎。1915年にコールタールによる人工がんを発生させた。*12
がんの治療 †
病巣が2cm以内の早期発見や転移のない段階で発見されれば手術や放射線治療によって完治する場合もあるが、転移があると副作用の強い抗がん剤による治療を行う必要がある。*13
がん細胞を認識し、排除に働く免疫細胞としては以下のものがある。これらによるがん細胞を排除する仕組みを免疫監視機構と呼ぶ。
しかし、がん細胞の元は自己の細胞であり抗原性が低いため、免疫による治癒の可能性は低い。
死因となるがんの種類 †
2014年における、男女別の死因となったがんの種類は以下の通り。
大腸がんは男女とも罹患率および死亡率が共に高い。
*2技術評論社 山中建生 知りたいサイエンス 地球とヒトと微生物 身近で知らない驚きの関係
*3技術評論社 桂義元 免疫はがんに何をしているのか? 見えてきた免疫のメカニズム 2016/12/25
*4メカニズム|海藻由来酵素消化低分子化フコイダンの抗腫瘍効果の研究: http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/lab/crt/fe/mechanism.html
*5化学放射線療法の効果が低い食道がんにおけるゲノム進化の過程を解明 | 研究成果 | 九州大学(KYUSHU UNIVERSITY): https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/654
*6技術評論社 桂義元 免疫はがんに何をしているのか? 見えてきた免疫のメカニズム 2016/12/25
*7大学院講義腫瘍学特論 腫瘍学特論 がんの現状と疫学 小林正伸: http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~mkobaya/kobayashi/Master_course.html
*8「がん」と「遺伝毒性発がん物質」:農林水産省: http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/a_syosai/about/iden.html
*9技術評論社 桂義元 免疫はがんに何をしているのか? 見えてきた免疫のメカニズム 2016/12/25
*10中央公論新社 中川恵一 知れば怖くない 本当のがんの話
*11中央公論新社 中川恵一 知れば怖くない 本当のがんの話
*12PHP研究所 竹内薫 丸山篤史 白くて眠れなくなる遺伝子(2016/1/5)
*13技術評論社 桂義元 免疫はがんに何をしているのか? 見えてきた免疫のメカニズム 2016/12/25
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