アミノ酸(amino acid) †
化学的にはアミノ基(‐NH2)とカルボキシル基(‐COOH)とをもつ有機化合物の総称。タンパク質(ペプチド)を構成する要素となる。基本となる化学構造は以下の通り。示性式は H2N-CHR-COOH
タンパク質を食べると体内でアミノ酸に分解される。人体の約20%がアミノ酸で構成されている。アミノ酸は500以上の種類があるが、人間が必要とするアミノ酸は20種類あり、そのうちの9種類は必須アミノ酸である。*2
アミノ酸は十分なエネルギーの存在下ではタンパク質合成に使用されるが、エネルギーが少ないときにはアミノ酸をα-ケト酸に転移してクエン酸回路でエネルギーを産生するために使用する。*3
また、糖新生や脂質の合成にも利用され、必要なアミノ酸が足りない時は筋肉が分解されて補充される。
アミノ酸の種類 †
グリシンを除いたアミノ酸はエナンチオマーを持つが、タンパク質の材料になるのはL体(L-アラニンなど)のみ。*4
食肉を250℃程度で加熱すると、その肉のタンパク質を構成するアミノ酸の一部がL体からD体に変化し、消化および吸収されにくくなろとされる。*5
D体のアミノ酸は、限られた種類のものだけが体内で生成される。
タンパク質の基本構成単位であるアミノ酸はグリシン(グリシンは光学異性体がない)を除いてすべてL型で構成されており、「生きている限り生体内でD-型へと反転することはない」というのがこれまでの生化学の常識でした。しかし、私たちはこの常識を覆し、水晶体タンパク質中のアスパラギン酸(Asp)というアミノ酸が老化に伴ってL体からD体に反転し、これが白内障と密接に関連することを明らかにしました。*6
これに対して細菌は様々なD体のアミノ酸を利用していることが確認されている。
一方で、D-アミノ酸はタンパク質合成には利用されず、限られた生命現象でのみ利用されていると考えられています。哺乳類が脳内で 2 種類の D-アミノ酸だけをつくるのとは対照的に、細菌は多種類の D-アミノ酸をつくり、細菌の細胞壁を作る材料として利用したり、周囲の細菌同士の連絡手段として利用したりすることが近年わかってきました。*7
また、アミノ酸にはα-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸などの種類があるが、タンパク質として利用されるのはα-アミノ酸のみ。
アミノ酸を性質で分類すると以下のようになる。*8
性質 | アミノ酸の名称 | 略号 | 必須アミノ酸 | ||
---|---|---|---|---|---|
疎水性 | アラニン | Ala | × | ||
バリン | Val | ○ | |||
ロイシン | Leu | ○ | |||
イソロイシン | Ile | ○ | |||
メチオニン | Met | ○ | |||
フェニルアラニン | Phe | ○ | |||
トリプトファン | Trp | ○ | |||
プロリン | Pro | × | |||
親水性 | 電荷を持つ | 塩基性 | アルギニン | Arg | × |
リシン(リジン) | Lys | ○ | |||
ヒスチジン | His | ○ | |||
酸性 | アスパラギン酸 | Asp | × | ||
グルタミン酸 | Glu | × | |||
電荷を持たない | セリン | Ser | × | ||
トレオニン(スレオニン) | Thr | ○ | |||
アスパラギン | Asn | × | |||
グルタミン | Gln | × | |||
システイン | Cys | × | |||
グリシン | Gly | × | |||
チロシン | Tyr | × |
例えば、植物はイソロイシンを合成することができるが、オキサロ酢酸 → アスパラギン酸 → トレオニン → イソロイシン という長い合成経路をたどる必要がある。
食品の味に関わる種類もある。グリシンやアラニン、セリンには甘みがあり、分岐鎖アミノ酸は苦味がある。*9
アミノ酸の代謝 †
アミノ酸に含まれるアミノ基はクエン酸回路で代謝できないため、まず、アミノ基を除去する。
多くのアミノ酸ではアミノ基転移反応によってグルタミン酸が生成され、その後、酸化的脱アミノ化によってアンモニアとなる。アミノ基が分離された炭素骨格がクエン酸回路で代謝される。
例外としてグリシンとセリンはクエン酸回路ではなくグリシン開裂反応によって代謝される。
*2植物からアミノ酸,ペプチドなどの単離: http://crf.flib.u-fukui.ac.jp/dspace/bitstream/10461/4898/1/h19.p.36-p.37.pdf
*3西神戸支部臨床栄養勉強会 第3回 「必要エネルギーの算出 ~糖質・アミノ酸・脂質~」兵庫県立こども病院 辻本勉: http://plaza.umin.ac.jp/~hhpseiko/100311T.pdf
*4富山大学 アミノ酸・ペプチド・タンパク質:生命を支える主役たち : http://www3.u-toyama.ac.jp/envac/yomimono/yomimono-ono.pdf
*5日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室 第33回 ビーフ・ステーキを焼く: http://www.agr.okayama-u.ac.jp/amqs/josiki/33-9602.html
*6京都大学原子炉実験所藤井研究室: http://hlweb.rri.kyoto-u.ac.jp/fl/naiyo.html
*7腸内細菌と哺乳類の新たな相互作用の発見 細菌がつくる D 型アミノ酸の腸内での代謝と腸内環境: https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2016/7/28/20160728_1.pdf
*8秀和システム 生化学若い研究者の会 これだけ!生化学
*9技術評論社 石浦章一 タンパク質はすごい! 心と体の健康を作るタンパク質の秘密(2014/1/5)
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