ビオチン(biotin) †
ビタミンBに分類される水溶性ビタミン。様々な酵素(主にビオチン酵素)の補酵素として働き、糖新生やアミノ酸代謝、脂肪酸の合成などに関わる。ビタミンB7やコエンザイムRとも。過去にはビタミンHと呼ばれた。
三つの独立した研究からそれぞれ酵母の成長因子(ビオスⅡb)、根粒菌の成長と呼吸促進因子(コエンザイムR)、ラットの卵白障害の予防因子(ビタミンH)として発見された。*1
ビオチンは1927年、酵母の成長促進の有機成分として Boas によって発見された。この成分はビオス(bios)とよばれ、その後3つの異なった成分からなることが明らかになった。その一つのビオスⅡbがビオチン(biotin)で、KoglとTonnis(1936)によって卵黄からメチルエステル化合物として単離、結晶化された。… また、これとは別に、Gyogy(1931)も肝臓に存在する同様の因子を見出し、ビタミンH(Haut:皮膚の意)と名づけた。… 後にビオチンとビタミンHは生理学的、生化学的、生物学的に同一の特性をもつことが認められた。*2
脳や肝臓、血液などに多い。多くはタンパク質と結合して存在する。麹菌の細胞小器官であるペルオキシソームで生合成されることが確認されている。*3
ビオチンの食事摂取基準*4 †
年齢(歳) | 推奨量(μg/日) |
---|---|
1~2 | 20 |
3~5 | 20 |
6~7 | 25 |
8~9 | 30 |
10~11 | 35 |
12~14 | 50 |
15~17 | 50 |
18~29 | 50 |
30~49 | 50 |
50~69 | 50 |
70~ | 50 |
ビオチンの欠乏症 †
脳におけるビオチン欠乏は、乳酸の蓄積による緊張低下や痙攣、運動失調、発育遅延などの神経系症状を引き起こす。身体においては皮膚炎や結膜炎、脱毛、ケトアシドーシス・乳酸アシドーシス、乳幼児の発育遅延などが報告される。
卵白に含まれているアビジンが、消化管内でビオチンと結合してビオチンの吸収を阻害することが確認されている(卵白障害)。
ヒトでは Sydenstricker による卵白障害の実験(1942)がある。毎日 200gの乾燥卵白を与えたとき、7週以降では体内のビオチン低下に伴って皮膚の発赤、疲労感、筋肉痛、知覚異常、嘔吐などの症状が現れ、血液学的にもヘモグロビン減少、コレステロールの増加などが観察されている。*5
慢性的に生卵白を摂取した場合、毛髪の退色を伴う脱毛、湿疹、鬱病、嗜眠、幻覚、四肢の感覚異常などが報告されている。
ビオチンを多く含む食品*6 †
肉類、野菜、果物には少ない。また、食品加工や保存加工はさらに減少する。
*2日本人の水溶性ビタミン必要量に関する基礎的研究 主任研究者 柴田克己 滋賀県立大学 教授: http://www.shc.usp.ac.jp/shibata/H14Report.II-12.pdf
*3麹菌がビタミンをつくるメカニズムを解明 | 東京大学大学院農学生命科学研究科: http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2011/20110829-1.html
*4日本人の食事摂取基準(2015年版)スライド集: http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056112.html
*5日本人の水溶性ビタミン必要量に関する基礎的研究 主任研究者 柴田克己 滋賀県立大学 教授
*6日本人の水溶性ビタミン必要量に関する基礎的研究 主任研究者 柴田克己 滋賀県立大学 教授
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