ミュータンス菌(Streptococcus mutans) †
う蝕(虫歯)の最大の原因となる口腔に生息する細菌。ストレプトコッカス属に属するグラム陽性の通性嫌気性菌(レンサ球菌)。学名はストレプトコッカス・ミュータンス。大きさは0.5〜10μm。40分毎に分裂するとされる。
代表的な虫歯菌。ミュータンス菌が持つ3種類のグルコシルトランスフェラーゼ(GTase)は、砂糖の主成分であるスクロース(ショ糖)を分解してグルカン(グルコースの重合体)を形成し、それがプラーク(歯垢)となる。
また、ミュータンス菌はスクロースやグルコース、ラクトース、マルトース、アミラーゼによって分解されたデンプンなどの糖を代謝して歯を溶かす酸(乳酸)を作り出す。これは虫歯の原因となる。ソブリヌス菌と共存することで活動性が増すとされる。*1*2*3
ショ糖などの発酵性糖質が歯垢内の細菌により代謝され,乳酸を主とした有機酸が産生され pH の急激な低下をもたらす。酸産生が引き続いて起こり歯垢内での貯留が高まると,歯質の脱灰を招くことになる。歯のエナメル質表面は pH 5.5 以下になると脱灰が始まり,これを臨界pHと言う。*4
酵素であるデキストランスクラーゼを持ち、その働きによってデキストランを作り出す。さらに、このデキストランを自身が持つもう一つの酵素であるデキストラナーゼによって加水分解してイソマルトオリゴ糖を作る。*5
歯の主成分であるハイドロキシアパタイトに付着する性質を持つため、歯のない乳幼児の口腔には存在しない。他者の唾液や同じ食器を使うことなどが原因で口を伝わって感染する。ミュータンス菌が定着するのは3歳までの感染が主であるため、幼少期に他者の口からミュータンス菌をもらうかどうかで虫歯の出来やすさが決まると言われる。*6*7
虫歯以外では、口腔の傷口などから血管に侵入することで、感染性心内膜炎や自覚症状のない脳内微小出血の原因となることが知られている。*8*9
ミュータンス菌に効果のあるもの †
ミュータンス菌の活動を抑えるのに以下のものが効果的と言われる。
*2小児歯科学雑誌 グルカンバイオフィルムモデルにおけるミュータンスレンサ球菌の酸産生 佐藤恭子 星野倫範, 藤原卓: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspd1963/45/3/45_412/_article/-char/ja/
*3口腔レンサ球菌によるデンプンからの酸産生とアミラーゼ阻害剤による影響 相澤志津子: http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000009619426-00
*4吉田明弘 口腔細菌のクオラムセンシングとバイオフィルム形成: http://www.jseb.jp/jeb/10-01/10-01-009.pdf
*5Photon Factory Activity Report 2012 #30 (2013) B 虫歯菌デキストラナーゼの結晶構造: http://pfwww.kek.jp/acr2012pdf/part_b/pf12b289.pdf
*6歯はどうして痛くなる?:むし歯の成り立ちと予防/日本大学松戸歯学部付属病院: http://www.mascat.nihon-u.ac.jp/hospital/feature/02_q02.html
*7医歯薬学総合研究科(歯)教授 仲野道: https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/soumu-pdf/icho_no65_p7.pdf
*8大阪大学大学院歯学研究科 口腔分子感染制御学講座(小児歯科学教室): http://web.dent.osaka-u.ac.jp/~pedo/research/researchcontent/03.html
*9京都府立医科大学 口腔ケアは認知機能の低下を防ぐ第一歩 ~4人に1人が保菌者のミュータンス菌と認知機能低下に関する研究論文の掲載~: https://www.kpu-m.ac.jp/doc/news/2017/files/13345.pdf
*10広島大学歯学部附属病院 義歯インプラント科講師 二川浩樹 ロイテリ菌(乳酸菌の一種)に虫歯予防効果: http://home.hiroshima-u.ac.jp/kohog/news/h14/020705.htm
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