PNPLA6 †
PNPLA6とは、パタチン様ホスホリパーゼドメイン含有タンパク質6(patatin-like phospholipase domain-containing protein 6)をコードする遺伝子、およびそれが翻訳する酵素の名称である。*1
PNPLA6遺伝子は、ヒトの染色体上では19番レギュレーション領域に位置しており、神経系の細胞機能や脂質代謝において重要な役割を果たす酵素である神経障害ターゲットエステラーゼ(Neuropathy Target Esterase: NTE)をコードしている。*2PNPLA6酵素はリパセ活性やエステラーゼ活性を有しており、細胞膜の主要な構成成分であるホスファチジルコリンなどの脂質代謝に関与していることが知られている。特に中枢神経系や末梢神経系の軸索の維持や、視神経の正常な機能にとって不可欠なタンパク質である。*3
PNPLA6遺伝子の変異は、いくつかの重篤な遺伝性疾患の原因となることが明らかにされている。代表的な疾患としては、神経変性疾患の一つである遺伝性運動失調症、脊髄小脳変性症の一種、また錐体路および小脳症状を伴う痙性対麻痺などが挙げられる。さらに、網膜色素変性症や視神経萎縮を引き起こすローダム・シニア症候群(Senior-Loken syndrome)や、ローレンス・ムーン・ビードル症候群に関連する病態、あるいは副腎皮質機能低下症や性腺機能低下症などを合併するBoucher-Neuhauser症候群などの稀少疾患との関連性も報告されている。これらの疾患においては、PNPLA6酵素の活性低下や機能異常が引き金となり、神経細胞のアポトーシスや脱髄、軸索変性が進行するものと考えられている。*4*5
また、PNPLA6遺伝子の産物であるNTEは、古くから有機リン化合物による遅発性神経障害(Organophosphate-induced delayed neuropathy: OPIDN)の主要な標的分子として毒性学の分野で研究されてきた。殺虫剤や神経剤などの有機リン化合物がPNPLA6のエステラーゼドメインに結合して阻害あるいは老化(aging)と呼ばれる化学構造の変化を引き起こすことが、中毒症状としての神経障害の発症機序の核心であるとされている。このように、PNPLA6は遺伝医学、神経学、および毒性学の多岐にわたる分野において極めて重要な研究対象となっている。*6
*2遺伝子疾患情報: https://togodb.biosciencedbc.jp/
*3NCBI Gene: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/10908
*4Gen_Ref: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/10908
*5遺伝子疾患情報: https://togodb.biosciencedbc.jp/
*6Gen_Ref: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/10908
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