脂肪酸(fatty acid) †
化学的には長鎖炭化水素の一価カルボン酸の総称であり、炭化水素とカルボキシ基(-COOH)を持つ有機化合物(カルボン酸)である。以下のように炭素が長く連なった構造(主鎖)を持つ。以下はリノール酸の化学構造。
空腹時に脂肪が分解されて血液中に移行した脂肪酸は、肝臓のミトコンドリアにおいてβ酸化を受けてアセチルCoAとなる。*1
脂肪酸の分類 †
脂肪酸は、その化学構造に含む二重結合の数によって以下のように分類される。これらの脂肪酸の摂取バランスが崩れると、細胞の脂質に変化を及ぼして、記憶学習や免疫細胞のサイトカイン産生に影響を与えるということが知られている。*2*3
飽和脂肪酸(脂) †
主に動物の肉や果肉から取れるあぶらを構成する脂肪酸。化学的には二重結合を持たない脂肪酸。
動物の油脂のように、飽和脂肪酸の割合が高いと常温では固体(脂肪または脂)となる。
不飽和脂肪酸(油) †
植物や魚類に多く含まれるあぶらを構成する脂肪酸。不飽和とは、化学的には二重結合(不飽和結合)を持つという意味である。植物や魚類のように不飽和脂肪酸の割合が高いと、油脂の融点が低くなるため常温では液体(油)となる。
一価不飽和脂肪酸 †
二重結合を1つ持つ脂肪酸。n-9系脂肪酸またはオメガ9系脂肪酸とも呼ばれる。*4
多価不飽和脂肪酸 †
飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸は体内での合成できるが、多価不飽和脂肪酸は体内で生合成できないために必須脂肪酸と呼ばれ、食物からの摂取する必要がある。*5
生体における脂肪酸の働き †
細胞膜の構成 †
細胞の膜(細胞膜)を構成するリン脂質に含まれる。飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の割合によって、細胞膜の性質が変化する。
エネルギー源 †
中性脂肪として体に蓄えられ、エネルギーとして利用される。特に心筋の主要なエネルギー源。
脂肪動員によって血液中に出た脂肪酸はアルブミンと結合して血液によって体内の各組織の細胞に渡される。細胞内に取り込まれた脂肪酸は、ミトコンドリアで完全に酸化され、大きなエネルギーを放出する。*6
グルコースの完全酸化が ATP 分子30―32個分に相当するのに対し,パルミチン酸の完全酸化は実にATP106分子に相当する.*7
飢餓状態では、脂肪酸が主なエネルギー源となる。
絶食時、脳と赤血球を除く多くの臓器が、エネルギーの大部分を脂肪酸に依存する。遷延する絶食により脂肪組織の中性脂肪が水解され、遊離脂肪酸が血中へ放出される。放出された遊離脂肪酸は、骨格筋や心臓では脂肪酸酸化を経てエネルギー通貨であるATP産生に利用される。*8
食用油100gに含まれる脂肪酸*9 †
食用油名 | 飽和脂肪酸(g) | 不飽和脂肪酸 | ||
---|---|---|---|---|
一価不飽和脂肪酸(g) | 多価不飽和脂肪酸 | |||
n-3系脂肪酸(g) | n-6系脂肪酸(g) | |||
亜麻仁油 | 8.09 | 15.91 | 56.63 | 14.50 |
エゴマ油 | 7.64 | 16.94 | 58.31 | 12.29 |
オリーブ油 | 13.29 | 74.04 | 0.60 | 6.64 |
ゴマ油 | 15.04 | 37.59 | 0.31 | 40.88 |
米油(米糠油) | 18.80 | 39.80 | 1.15 | 32.11 |
サフラワー油(ハイオレイック) | 7.36 | 73.24 | 0.21 | 13.41 |
サフラワー油(ハイリノール) | 9.26 | 12.94 | 0.22 | 69.97 |
ひまわり油(ハイリノール) | 10.25 | 27.35 | 0.43 | 57.51 |
ひまわり油(ミッドオレイック) | 8.85 | 57.22 | 0.22 | 27.88 |
ひまわり油(ハイオレイック) | 8.74 | 79.90 | 0.23 | 6.57 |
大豆油 | 14.87 | 22.12 | 6.10 | 49.67 |
トウモロコシ油(コーン油) | 13.04 | 27.96 | 0.76 | 50.82 |
菜種油(キャノーラ油) | 7.06 | 60.09 | 7.52 | 18.59 |
ヤシ油 | 83.96 | 6.59 | 0 | 1.53 |
パーム油 | 47.08 | 36.7 | 0.19 | 8.97 |
パーム核油 | 76.34 | 14.36 | 0 | 2.43 |
バター類(平均) | 51.0 | 18.0 | 0.3 | 1.80 |
マーガリン類(家庭用) | 23.04 | 39.32 | 1.17 | 11.81 |
ショートニング(家庭用) | 46.23 | 35.54 | 0.99 | 10.57 |
牛脂 | 41.05 | 45.01 | 0.17 | 3.44 |
サラダ油とは、植物由来の油のことで、主になたね油やトウモロコシ油、大豆油などのことである。
脂肪酸の構造的分類 †
脂肪酸は、その化学構造に含まれる骨格となる炭素の数によっても分類される。*11*12
(炭素数は文献によって異なる)
自然界には炭素数が18の高級脂肪酸が多い。細胞内には炭素数が16と18のものが多い。
脂肪酸に含まれる炭化水素が多いほど、分子の極性が小さくなるので、その脂肪酸は水に溶けにくくなる。炭素数が9以上の脂肪酸は水に溶けない。*13*14
その他の脂肪酸 †
油脂を塩基で加水分解(けん化)するとグリセリンと脂肪酸の塩となるが、ここで生じた脂肪酸の塩が石鹸である。*15
*2女子学生における血清 n-3 系多価不飽和脂肪酸について 南九州大学 管理栄養学科: http://www.nankyudai.ac.jp/library/pdf/45a-1ogawa.pdf
*3脂質恒常性の制御機構: http://ds22.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~seika2/kennkyuusuishin/Naiyou/oowada/liqid.html
*4山口大学医学部器官解剖学分野: http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~org-anat/research_content_j.html
*5秋田大学 多価不飽和脂肪酸による肥満予防に関する基礎的研究: http://www.akita-u.ac.jp/eduhuman/graduate/abstract_pdf/11-030.pdf
*6脂肪の代謝とその調節 ―からだのエネルギーバランス― 大学院生命理学研究科 教授 大隅隆: http://www.sci.u-hyogo.ac.jp/life/molbio/KOKAI.pdf
*7脂肪酸の多彩な代謝,生理機能と関連疾患: http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/05/82-07-03.pdf
*8群馬県地域共同リポジトリ 脂肪酸結合タンパクFABP4/5は絶食時の応答に重要な役割を果たす: https://gair.media.gunma-u.ac.jp/dspace/bitstream/10087/8622/1/%E5%86%85%E5%AE%B9%E8%A6%81%E6%97%A81489.pdf
*9日本食品標準成分表2015年版(七訂)脂肪酸成分表編 脂肪酸成分表編 第2章 第1表: http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365516.htm
*10徳島文理大学 薬学部 2009生物有機化学解答: http://p.bunri-u.ac.jp/lab23/esumi/ans7.pdf
*11鈴峯女子短期大学 脂肪酸: http://www.suzugamine.ac.jp/arinobu/gakusyuu/lipids.pdf
*12健常者血中の中鎖脂肪酸濃度 | 北海道大学 大学院 保健科学研究院 健康イノベーションセンター高度脂質ラボラトリー/細胞代謝化学研究室: https://www.hs.hokudai.ac.jp/cmcl-lala/foodreport/%E5%81%A5%E5%B8%B8%E8%80%85%E8%A1%80%E4%B8%AD%E3%81%AE%E4%B8%AD%E9%8E%96%E8%84%82%E8%82%AA%E9%85%B8%E6%BF%83%E5%BA%A6/
*13秀和システム 生化学若い研究者の会 これだけ!生化学
*14帝京大学 医学部医療技術学部 脂質エンサイクロペディックデータベース 脂肪酸の定義: http://www.med.teikyo-u.ac.jp/~lipo/lecture/fa/fa.html
*15油脂とセッケン: http://www.suginami.ac.jp/prints/silss/%E5%8C%96%E5%AD%A6%E3%80%80%E7%AC%AC51%E8%AC%9B%E3%80%80%E6%B2%B9%E8%84%82%E3%81%A8%E3%82%BB%E3%83%83%E3%82%B1%E3%83%B3.pdf
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