HEALTH WORDS / 用語解説
三重項酸素
Triplet Oxygen
三重項酸素とは、通常の状態(基底状態)にある酸素分子(O2)のことであり、その外殻軌道($\pi^*$軌道)にスピンが同一方向を向いた不対電子を2個有する分子である。12
酸素分子は、量子化学的な分子軌道法において特異な電子配置をとる物質として知られている。2 通常の分子ではすべての電子がスピンの向きをペアにして軌道に収容されることが多いが、酸素の最外殻にある2つの電子はパウリの排他原理を満たしながら別々の縮退した軌道に平行なスピンで存在する。2 このため、全スピン量子数が1となり、多重度が3を示すことから「三重項酸素」と呼ばれる。1
私たちが日常的に呼吸で吸い込み、大気中に約21%の割合で存在している酸素は、この基底状態にある三重項酸素そのものである。1 地球上の多くの好気性生物は、この三重項酸素を電子受容体として利用することでエネルギー代謝を行っている。2
物理化学的な性質として、三重項酸素は通常の有機化合物(これらは通常、すべての電子が対をなした一重項状態にある)と直接反応しにくいという特徴を持っている。2 量子力学的なスピン保存則の制限を受けるため、一挙に両方の電子の向きを反転させて結合を形成することが困難であるためである。2 そのため、大気中にある三重項酸素は、有機物質と接触してただちに自然発火するようなことはなく、比較的安定に存在することができる。1
一方で、生物体内や化学反応においては、酵素の働きや金属イオンの関与、あるいは光増感反応などによってスピンの禁制が緩和されるか、あるいはエネルギーが与えられる。2 これにより、三重項酸素が一重項酸素などの活性酸素種へと変換される場合がある。2 一重項酸素はスピンの禁制がないため非常に高い反応性を示し、生体成分に対して酸化ストレスを与える要因となる。2