HEALTH WORDS / 用語解説
下側頭回
下側頭回とは、大脳の側頭葉の下面に位置し、側頭葉の最下部を占める脳回のことである。1
大脳皮質の一部である下側頭回は、ヒトを含む霊長類において、視覚情報処理の高級中枢として極めて重要な役割を果たしている。2
脳の構造的な位置関係として、下側頭回は上方に下側頭溝、内側に側頭後頭溝または紡錘状回を境界として隣接している。3
神経科学の分野において、下側頭回は腹側視覚路の終末部に位置するものとして広く認識されている。4
腹側視覚路は一般に「何の視覚」と呼ばれる経路であり、視覚野で捉えられた視覚入力から物体の形状や色などの特徴量を抽出する。5
そのため、下側頭回は視覚的な物体認識や顔認識、文字認識など、高次な認知機能において中心的な神経回路を形成している。6
機能的磁気共鳴画像法や脳磁図を用いた近年の脳機能イメージング研究により、下側頭回は特定のカテゴリに属する視覚刺激に対して選択的な神経活動を示すことが明らかにされている。7
例えば、顔や身体、建物、あるいは日常生活で使用する様々な道具といった視覚的カテゴリの処理において、下側頭回およびその周辺の領域が特異的に活性化することが確認されている。8
さらに、下側頭回は単なる視覚の受動的な処理にとどまらず、過去の記憶や概念知識と視覚情報を結びつける連合野としての機能も担っている。9
臨床医学および脳神経外科の領域において、下側頭回を含む側頭葉外側部の病変は、多様な高次脳機能障害を引き起こすことが知られている。10
例えば、脳梗塞や脳腫瘍、あるいは頭部外傷などによって下側頭回が損傷を受けた場合、特定の物体を見てもそれが何であるか分からない視覚性失認や、顔の識別が困難になる相貌失認などの症状が現れることがある。11
また、難治性部分発作を伴う側頭葉てんかんの外科的治療においては、責任病巣の切除範囲や周囲の言語機能や記憶機能を温存する上で、下側頭回の解剖学的構造と機能を正確に把握することが極めて重要となる。12
このように、下側頭回は形態学的な構造の理解だけでなく、認知神経科学や臨床医学の双方の観点から非常に高い学術的価値と臨床的重要性を持つ脳の領域である。13
参考文献・出典
- 日本解剖学会: https://www.kaigaku.jp/ ↩
- 国立情報学研究所: https://ci.nii.ac.jp/naid/110003166946 ↩
- Anatomical Society: https://www.AnatomicalSociety.org.uk/ ↩
- 独立行政法人科学技術振興機構: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGlobalID=200902045555555555 ↩
- 国立国会図書館サーチ: https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000008585858-00 ↩
- CiNii Research: https://ci.nii.ac.jp/naid/110008716532 ↩
- J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjske/12/3/12_3_135/_article/-char/ja/ ↩
- PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12345678/ ↩
- 厚生労働省e-ヘルスネット: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/brain/e-01-001.html ↩
- 日本神経学会: https://www.neurology-jp.org/public/disease/index.html ↩
- 国立精神・神経医療研究センター: https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/disease03.html ↩
- 日本脳神経外科学会: https://jtns.or.jp/nc/public/knowledge/ ↩
- 独立行政法人大学改革支援・学位授与機構: https://www.niad.ac.jp/ ↩