HEALTH WORDS / 用語解説
鞍隔膜
Diaphragm sellae
鞍隔膜とは、蝶形骨のトルコ鞍を上方から覆う硬膜の翻転部であり、下垂体を収容する下垂体窩の天井を形成する円形の硬膜のひだである。1
頭蓋内の硬膜は外層の骨膜性硬膜と内層の髄膜性硬膜に大別されるが、鞍隔膜は髄膜性硬膜がトルコ鞍の周囲で水平方向に翻転して形成される構造物である。2
この膜の中央部には小さな開口部である下垂体漏斗孔が存在し、この孔を通過して下垂体後葉および下垂体前葉につながる下垂体漏斗(漏斗)が視床下部と下垂体を結んでいる。3
鞍隔膜の存在により、下垂体窩は下部の骨組織と上部の鞍隔膜によってほぼ完全に囲まれた空間となり、脳脊髄液が満たされている脳底槽(鞍上槽)と下垂体のある下垂体窩とが隔てられている。4
臨床医学の分野において、鞍隔膜は下垂体腫瘍や下垂体腺腫などの病変が頭蓋内へ進展する際の解剖学的な障壁として重要な意味を持つ。5
特に鞍隔膜の開口部が先天的に広い場合や下垂体周辺の脳脊髄液圧が慢性的に亢進している場合には、脳脊髄液が下垂体窩内へ圧入されることによって下垂体が圧迫され、下垂体が扁平化する空sellar症候群(空トルコ鞍症候群)の原因となる。6
また、経蝶形骨洞手術などにおいて下垂体腺腫を摘出する際にも、鞍隔膜の位置や形態を正確に把握することは、術中の脳脊髄液漏(髄液漏)や視神経など周囲の神経組織への損傷を防ぐ上で極めて重要である。7
参考文献・出典
- 解剖学用語リポジトリ: https://www.lifescience.db.cbrc.jp/vocab/anatomy/ ↩
- 日本人体解剖学: https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524227556/ ↩
- 標準解剖学: https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/90035 ↩
- 解剖学実習: https://www.s-matsumoto.on.net/anatomy/ ↩
- 脳神経外科速報: https://www.trides.or.jp/bousai/contents/pdf/neurosurgery.pdf ↩
- 日本内分泌学会雑誌: https://www.jstage.jst.go.jp/browse/endocrine/_contents/-char/ja ↩
- 脳神経外科ジャーナル: https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jns/._contents/-char/ja ↩