HEALTH WORDS / 用語解説
アデノウイルスE1A
Adenovirus E1A
アデノウイルスE1Aとは、アデノウイルスのゲノム領域から最初に発現する初期遺伝子の一つであり、ウイルス複製や宿主細胞の転写調節において中心的な役割を果たすタンパク質をコードする領域である。1
アデノウイルスが宿主の細胞に感染すると、E1A遺伝子が速やかに転写および翻訳され、ウイルス自身の遺伝子発現を効率的に進めるための基盤が作られる。1
E1Aタンパク質はそれ単独ではDNA結合活性を持たないものの、宿主細胞が持つ多数の転写因子や調節タンパク質と直接的に結合する性質を持つ。2
これにより、宿主細胞の細胞周期を強制的にS期へと進行させ、ウイルスゲノムの複製に適した環境を人工的に構築する働きを持つ。2
また、E1Aは宿主の細胞周期を負に制御するRbタンパク質ファミリーなどのがん抑制遺伝子産物と強固に結合し、その機能を不活化することが広く知られている。1
Rbタンパク質の不活化に伴い、E2Fなどの転写因子が遊離して活性化するため、細胞増殖に関わる遺伝子群の発現が亢進され、細胞は不死化や形質転換の方向へ誘導される。2
さらに、E1Aはp300やCBPといったヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を持つコアクチベーターとも結合し、宿主のクロマチン構造や遺伝子発現ネットワークを大きく撹乱・制御する。1
こうした宿主細胞のアポトーシス誘導機構を回避しつつ、効率的なウイルスの増殖を助ける多彩な機能を持つ一方で、Rbタンパク質などの細胞周期チェックポイントを破綻させるため、強力ながん原遺伝子としての側面も併せ持っている。2
近年のがん治療分野においては、このE1Aの機能を応用あるいは遺伝子改変した腫瘍溶解性ウイルスの開発が進められており、正常細胞では増殖せずがん細胞特異的に細胞死を誘導するベクターシステムなどの研究基盤としても利用されている。1