HEALTH WORDS / 用語解説
受精前隔離
Prezygotic isolation
受精前隔離とは、異種間交雑や個体群間において、配偶子が融合して受精卵が形成されるよりも前の段階で生殖隔離が成立し、交雑が防止される進化生物学および生態学上のメカニズムのことである。1
生殖隔離メカニズムは大きく受精前隔離と受精後隔離に大別され、受精前隔離は種分化の過程において遺伝的独立性を維持するために極めて重要な役割を果たしている。2
受精前隔離が生じる要因や過程は多様であり、分類学や生態学の分野ではいくつかの主要な隔離機構に分けて詳細に研究されている。
代表的な受精前隔離の一つに生態的隔離(または生息場所隔離)があり、これは近縁な種同士が地理的に同所的であっても、利用する生息地や微小環境、あるいは活動時間帯などが異なるために、自然状態で遭遇する機会が制限される現象を指す。1
また、季節隔離や時間隔離と呼ばれる、繁殖期や繁殖行動を行う季節・時間帯のずれによって交配が阻害されるメカニズムもこれに含まれる。
さらに、動物においては行動的隔離(または性隔離、配偶行動隔離)が重要な位置を占める。
これは求愛行動のシグナル、発声、フェロモンなどの化学物質、あるいは視覚的な装飾形質に対する雌雄間の選好性が種特異的であるため、異種間の求愛が成立しない、あるいは交尾に至らない現象である。1
受精前隔離の段階には、仮に交尾や配偶子の放出が行われた後であっても、生殖器の形態的な不適合によって交尾器の機械的隔離が生じる場合や、体内における精子や卵子の相互作用の不全による配偶子前隔離(配偶子レベルの拒絶)が含まれることもある。
植物においても受精前隔離は広く観察されており、花粉媒介者(送粉者)の種類や送粉シンドロームの違いによる媒介者の特異性、花の形態的特徴による交配の制限などが強力な受精前隔離として機能している。
受精前隔離は、不適合な交雑によって生じる適応度の低下やエネルギーの無駄(生殖的干渉)を避けるための適応的進化の結果として生じることが多く、自然選択によって同所的な近縁種間で受精前隔離が強化される現象は強化学説(強化)として知られている。2
このように受精前隔離は、多様な生物多様性が維持され、それぞれの遺伝子プールが保全されるための最初の防壁として機能している。
参考文献・出典
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201002014022415174 ↩1 ↩2 ↩3
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907038676229158 ↩1 ↩2