HEALTH WORDS / 用語解説
海馬苔状線維
Mossy fiber of the hippocampus
海馬苔状線維とは、脳の海馬回路において、歯状回の顆粒細胞からCA3領域の錐体細胞および介在ニューロンへと信号を伝える有髄神経の軸索である。1
海馬における情報処理の主要な経路である三シナプス回路の一部を構成しており、歯状回の顆粒細胞から発せられた軸索は、CA3領域の錐体細胞の樹状突起にある苔状線維ボタンと呼ばれる特徴的な巨大シナプス終末を形成する。1
組織学的な特徴として、電顕レベルでの観察において、苔状線維のシナプスには多数のシナプス小胞や、特徴的な有棘突起との複雑な陥入構造(コンプレックスシナプス)が認められる。2
生理学的には、このシナプスは通常の化学シナプスとは異なり、活動電位の到来に対して高い伝達物質の放出確率を持ち、一過性のシナプス前性の可塑性を示すことが広く知られている。1
また、海馬苔状線維の伝達は、主として興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸を介して行われ、ポストシナプス側のAMPA受容体やNMDA受容体だけでなく、カイニン酸受容体が特異的に高い密度で発現しているという薬理学的特徴を持つ。1
回路機能としての役割には、歯状回で処理されたパターン分離された情報をCA3領域に効率よく伝達し、エピソード記憶の符号化や記憶の連想において重要な寄与をしていると考えられている。1
さらに、病態生理学的な観点からも海馬苔状線維は非常に重要視されており、側頭葉てんかんなどの疾患においては、苔状線維の異常な発芽(スプラウティング)が起こり、これがてんかん発作の同期化や回路の過剰興奮を引き起こす主要な原因の一つになるとされている。3
このように、海馬苔状線維は単なる軸索の束にとどまらず、記憶・学習という高次脳機能の基盤であるとともに、神経変性疾患やてんかんの病態メカニズムを解明する上でも極めて重要な神経線維として、多くの基礎医学および臨床医学の研究対象となっている。1