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HEALTH WORDS / 用語解説

パターン分離

Pattern separation

この機能により、人間や動物は酷似した複数の記憶や感覚入力を混同することなく、それぞれを区別して記憶・学習することが可能になると考えられている。12

哺乳類の脳において、パターン分離が担う中核的な神経回路として最もよく知られているのが海馬の歯状回である。1

海馬への主要な入力経路である嗅内野からの情報は、苔状線維を介して歯状回の顆粒細胞へと伝えられる。1

歯状回の顆粒細胞は、脳全体の中でも特異的に活動電位の発生頻度が低いスパース性の高い状態に維持されているという特徴を持つ。1

このスパース性や、大量の神経細胞に対する軸索の投射構造、そしてシナプス可塑性などの神経生理学的特性が組み合わさることで、類似した入力信号同士が歯状回の異なる神経細胞群へと割り振られ、出力段階で明確に区別されるようになる。12

パターン分離と対比される概念としてパターン完成が存在する。1

パターン完成は、部分的な手がかりや不完全な入力情報から、過去に学習した完全な記憶の全体像を再構築するメカニズムであり、主として海馬のCA3領域に備わっている機能とされる。1

脳は、歯状回におけるパターン分離によって似て非なる記憶の混同を防ぎつつ、CA3領域におけるパターン完成によって少量の情報から過去の記憶を思い出すという、一見すると矛盾する二つの高度な情報処理を海馬の回路網内で両立させている。1

このようなパターン分離の能力は、エピソード記憶の形成において極めて重要な役割を果たす。1

例えば、過去に車を駐車した場所や、昨日食べた食事の内容といった、似たような状況が連続して生じる場面であっても、パターン分離機能が正常に働くことで、それぞれの記憶を別個のエピソードとして正確に記憶・想起することができる。1

もし歯状回の神経回路やパターン分離の機能に破綻が生じると、過去の類似した体験や記憶の干渉が強まり、新しい情報を正確に学習できなくなったり、物事の弁別が困難になったりする。1

近年の脳神経科学や認知神経科学の分野では、アルツハイマー病などの神経変性疾患や加齢に伴う記憶障害において、海馬のパターン分離機能の低下が深く関与していることが示唆されており、精力的な研究が進められている。12

参考文献・出典

  1. 脳科学辞典: https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%91%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%88%86%E9%9B%A2 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12
  2. 国立研究開発法人情報通信研究機構: https://www.nict.go.jp/press/2021/04/09-1.html ↩1 ↩2 ↩3