HEALTH WORDS / 用語解説
ゼノトランプランテーション
Xenotransplantation
ゼノトランプランテーションとは、異なる種の間で行われる移植医療、すなわち異種移植を指す医学用語である1。主にヒトに対して動物の細胞、組織、あるいは臓器を移植する医療技術や研究全般を意味している1。
現代の移植医療においては、脳死患者や心停止患者からの臓器提供数が移植を希望する患者数に対して慢性的に不足しているという深刻な臓器不足の問題が存在している2。このドナー不足を抜本的に解決するための有力な手段として、ブタなどの動物をドナーとするゼノトランプランテーションの研究が進められてきた1。特にブタは、繁殖力が強く飼育が容易であることや、解剖学的・生理学的にヒトと一定の類似性があること、さらに遺伝子改変技術の適用が比較的容易であることから、主なドナー動物として選定されている2。
しかし、ゼノトランプランテーションの臨床応用には、生物学的および医学的な観点から多くの重大な障壁が存在している1。その最大の障壁の一つが免疫拒絶反応である2。異なる種の間で臓器や組織を移植した場合、受容者であるヒトの免疫系が異物を強力に認識するため、通常の同種移植よりもはるかに激しい超急性拒絶反応や急性液性拒絶反応が引き起こされ、短時間で移植片が機能不全に陥ってしまう2。この強い免疫的障害を克服するため、近年ではゲノム編集技術などを用いて拒絶反応に関与する特定の遺伝子をノックアウトした遺伝子改変ブタを作出する研究が盛んに行われている2。
もう一つの重大な懸念事項として、人獣共通感染症(ズーノーシス)のリスクが挙げられる1。動物が保有する未知のウイルスや病原体、特にブタ内因性レトロウイルス(PERV)などが移植を介してヒト受容者に伝播し、さらには公衆衛生上の新たな感染症として社会全体に拡大する危険性が指摘されている1。そのため、感染症の伝播を防ぐための厳格な安全管理体制の構築や、病原体フリーの環境で動物を飼育・管理する技術の確立が求められている1。
さらに、ゼノトランプランテーションの実施にあたっては、医学的な課題のみならず、倫理的、法的な議論も不可欠である1。動物福祉の観点からの是非や、異種間の臓器移植が人間の尊厳やアイデンティティに与える影響、さらには臨床試験を実施する際の社会的合意の形成など、多角的な視点からガイドラインの策定や規制の検討が続けられている2。