HEALTH WORDS / 用語解説
記憶障害
記憶障害とは、新しく情報を覚えることや、過去の出来事を思い出すことなど、記憶のプロセスの一部または全部に障害が生じた状態を指す。1 脳の器質的病変や精神疾患、心理的要因など多様な原因によって引き起こされ、日常生活や社会的適応に大きな影響を及ぼす疾患・病態の総称である。2
記憶の仕組みは、外界からの情報を一時的に保持する感覚記憶、数秒から数分間保持される短期記憶、そして長期にわたって蓄積される長期記憶に大別される。1 記憶障害が生じる際には、これらの一連の情報処理プロセスのうち、どの段階に不具合が生じているかによって症状の現れ方が異なる。3 特に長期記憶は、言葉で表現できるエピソード記憶や意味記憶といった宣言的記憶と、自転車の乗り方や楽器の演奏といった身体で覚える手続き記憶に分類されるが、記憶障害ではエピソード記憶が障害されやすい特徴がある。1
記憶障害の代表的な症状の一つに、健忘がある。2 健忘には、病因や受傷後などの特定の時点から記憶の障害が発生し、それ以降の新しいことが覚えられなくなる前向健忘と、病気や事故が起こる前の一時期の記憶が思い出せなくなる逆向健忘が存在する。1 脳の前頭葉などの機能低下が関与する場合、事実とは異なる内容を無意識に作り上げて話してしまう作話という症状がみられることもある。2
記憶障害を引き起こす主な原因疾患としては、アルツハイマー病などの認知症が挙げられる。1 認知症では、初期段階から近時記憶の低下が顕著に現れ、日常生活の自立性が徐々に損なわれていく。3 また、脳血管障害(脳梗塞や脳出血など)によって脳の特定部位がダメージを受けることでも記憶障害が突発的に生じる。2 さらに、頭部外傷、脳炎などの感染症、重度のビタミンB1欠乏を伴うコルサコフ症候群、あるいは過度なストレスや心理的ショックに起因する解離性障害なども原因となる。1
記憶障害の評価と診断においては、医師による問診や神経心理学的検査が実施される。2 代表的な検査としてはウェクスラー記憶検査(WMS-R)などの知能検査・記憶検査があり、これらを用いて言語性記憶や視覚性記憶などの認知機能の偏りを詳細に測定する。1 また、MRI検査やCT検査といった画像診断を行うことで、脳の萎縮や脳梗塞、脳腫瘍などの器質的疾患の有無を確認することが不可欠である。2
記憶障害に対する治療およびリハビリテーションは、原因疾患の根本的な治療と並行して行われる。3 薬物療法としては、認知症の進行を抑制する薬剤などが用いられることがある。1 高次脳機能障害に対するリハビリテーションでは、失われた機能を直接回復させる訓練だけでなく、メモ帳やスマートフォン、アラームなどの補助手段(代償手段)を活用して日常生活の困難を補う訓練が中心となる。3 周囲の家族や支援者による環境調整も極めて重要であり、本人が混乱しないようなコミュニケーションの工夫や生活環境の整備が行われる。1
参考文献・出典
- e-ヘルスネット: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-005.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9
- 国立国会図書館リサーチ・ナビ: https://rnavi.ndl.go.jp/jp/guides/theme_123005.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
- 厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaisha/hattatsu/index.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4