HEALTH WORDS / 用語解説
ヒストンアセチル化酵素
Histone acetyltransferase: HAT
ヒストンアセチル化酵素とは、ヒストンのN末端テール部に存在するリシン残基のアミノ基へ、アセチル基を転移させる反応を触媒する酵素の総称である。1
エピジェネティクスの主要な制御機構の一つとして機能し、染色体の構造変化や遺伝子発現の調節において中心的な役割を果たしている。1
真核生物のDNAは、4種類のコアヒストン(H2A、H2B、H3、H4)からなるヒストン八量体に巻き付く形でヌクレオソームを形成し、さらに高次構造をとることでクロマチンを構成している。2
ヒストンのアミノ酸残基は正の電荷を帯びており、これが負の電荷を持つDNAのリン酸骨格と強く静電的に結合することで、クロマチンは密に凝縮した構造をとる。2
ヒストンアセチル化酵素がリシン残基をアセチル化すると、正電荷が中和されてDNAとヒストンの間の親和性が低下する。2
これにより、凝縮していたクロマチン構造が弛緩し、転写因子やRNAポリメラーゼなどの転写装置がDNA上の標的配列へアクセスしやすくなる結果、遺伝子発現が活性化される。2
ヒストンアセチル化酵素は、その細胞内局所や構造的特徴、機能の違いから、いくつかの主要なファミリーに分類される。1
代表的なものとして、転写コアクチベーターとして機能するp300やCBP (CREB-binding protein)、PCAF、GCN5などが知られており、これらは様々なシグナル伝達や細胞周期の進行、細胞分化の過程において重要な役割を担っている。1
これらの酵素によるアセチル化反応は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の働きによってアセチル基が除去されることで可逆的に制御されており、両者の動的なバランスがエピジェネティクスな遺伝子発現制御の基盤となっている。1
また、ヒストンアセチル化酵素の異常や変異は、癌をはじめとする様々な疾患の発症や進展に関与していることが明らかにされており、創薬の標的としても大きな注目を集めている。1