HEALTH WORDS / 用語解説
ヒストンH5
Histone H5
ヒストンH5とは、鳥類などの赤血球に見出されるH1ヒストンファミリーの特異的なサブタイプであり、成熟した有核赤血球の核においてクロマチンの高度な凝縮と転写不活性化を担うタンパク質である。1
真核生物のゲノムDNAはヒストン八量体に巻きついてヌクレオソームを形成し、さらにクロマチン構造を構築している。2 その中でH1ヒストンなどのリンカーヒストンは、ヌクレオソーム同士の間をつなぐリンカーDNAに結合し、クロマチンファイバーの折りたたみや高次構造の安定化に寄与している。3 ヒストンH5は鳥類や両生類などの有核赤血球の分化の最終段階で特異的に発現し、通常の体細胞に存在するH1ヒストンの一部または大部分と置き換わる特徴を持つ。4
鳥類の赤血球は哺乳類の赤血球とは異なり、核を保持したまま成熟する。5 しかし、成熟の過程で転写活動は完全に停止し、ゲノムは非常に強固にパッキングされて不活性化状態となる。6 ヒストンH5はこの極端なクロマチンの凝縮を誘導・維持する上で中心的な役割を果たしており、通常のH1ヒストンと比較してより強いDNA結合能や凝集能を示すことが知られている。7
分子構造の観点から見ると、ヒストンH5は球状のグロブリンドメインと、塩基性アミノ酸に富むN末端およびC末端のテール領域から構成されている。8 特にリシン残基の含有量が非常に高く、正の電荷を強く帯びているため、負の電荷を持つDNA骨格と強い静電的相互作用を行うことができる。9 この特異的なアミノ酸配列と構造の差異により、ヒストンH5はクロマチンの高次構造を他のH1ヒストンよりも頑丈に固定し、核酸をヌクレアーゼなどの攻撃から保護する機能も有している。10
このようにヒストンH5は、赤血球の最終的な分化プログラムにおいて遺伝子発現を永久的にシャットダウンし、細胞核の機能を不活化するために進化した極めて特殊なリンカーヒストンである。11
参考文献・出典
- Genetics: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1216140/ ↩
- Nature Structural & Molecular Biology: https://www.nature.com/articles/nsmb755 ↩
- Journal of Molecular Biology: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S002228360580327X ↩
- Developmental Biology: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0012160683902319 ↩
- Blood: https://ashpublications.bloodjournal.org/content/100/4/1227 ↩
- Proceedings of the National Academy of Sciences: https://www.pnas.org/content/77/3/1435 ↩
- Biochemistry: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/bi00439a015 ↩
- European Journal of Biochemistry: https://febs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1432-1033.1988.tb13919.x ↩
- Journal of Biological Chemistry: https://www.jbc.org/article/S0021-9258(18)82415-X/pdf ↩
- Nucleic Acids Research: https://academic.oup.com/nar/article/13/15/5521/1162380 ↩
- Experimental Cell Research: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/001448279290022E ↩