HEALTH WORDS / 用語解説
平衡覚
sense of equilibrium
平衡覚とは、身体の傾きや回転、および重力の方向を感知し、姿勢や平衡を保つための感覚である。1
平衡覚は、主として内耳の前庭器に備わる受容器によって受容される。2
内耳の前庭には、耳石器である球形嚢と卵形嚢が存在し、これらは直進加速度や頭部の空間的な傾き、すなわち重力の方向を感知する役割を担っている。3
これに対して、半規管(前半規管・後半規管・外側半規管の3つで構成される)は、頭部の回転運動や角加速度を感知する受容器として機能する。3
耳石器の内面には平衡斑と呼ばれる感覚上皮があり、その表面には炭酸カルシウムを主成分とする微小な結晶である耳石を含んだ耳石膜が存在している。4
頭部が傾いたり直線的な加速度運動が生じたりすると、重力や慣性力によって耳石膜が動き、下層にある有毛細胞の繊毛が曲げられる。1
この繊毛の機械的な変形が機械受容器電位を引き起こし、細胞膜の脱分極または過分極を誘発して、神経伝達物質の放出量が変化する。4
これにより前庭神経の活動電位の発生頻度が変化し、頭部の位置情報が中枢神経系へと伝達される仕組みになっている。3
一方、半規管の内部は内リンパ液という液体で満たされており、その基部にある膨大部にはクプラというゼリー状の構造物と有毛細胞からなる膨大部稜が存在する。1
頭部が回転運動を行うと、慣性によって管内の内リンパ液が移動し、それがクプラを押し倒すように働く。3
クプラが傾くことで有毛細胞の毛が曲げられ、回転の方向や速度に応じた神経信号が生成されて前庭神経を介して脳へ送られる。2
このようにして前庭器から送られた情報は、前庭神経を通って脳幹の前庭神経核へと入力される。1
前庭神経核からの出力は、小脳、大脳皮質、および脊髄へ投射され、全身の運動器や眼球の動きを統合的に制御する。3
特に、頭部の動きに対して反射的に目を逆の方向へ動かして視界を安定させる前庭眼反射や、姿勢を保つための前庭脊髄反射などが、平衡覚の維持において重要な役割を果たしている。2
平衡覚の維持には、内耳からの前庭覚だけでなく、眼からの視覚情報や、筋肉・関節からの深部感覚(固有受容覚)も深く関与している。4
これら複数の感覚情報は中枢神経系によって統合され、人間は複雑な環境下でも自身の空間認知や身体のバランスを正確に保つことが可能となっている。1
参考文献・出典
- 日本生理学会: https://www.physiologicalsocietyjapan.jp/education/kokoro/kokoro-12.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
- 厚生労働省 e-ヘルスネット: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-053.html ↩1 ↩2 ↩3
- MSDマニュアル プロフェッショナル版: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/06-耳、鼻、喉の障害/耳の病気の概要/耳の構造 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
- 慶應義塾大学 医学部 生理学教室: https://www.physiol.med.keio.ac.jp/research/labo/neurophysiol/ ↩1 ↩2 ↩3