HEALTH WORDS / 用語解説
核磁気共鳴法
Nuclear Magnetic Resonance
核磁気共鳴法(かくじききょうめいほう)とは、原子核のスピン角運動量と磁気モーメントを利用し、外部静磁場中にある特定の原子核が特定の周波数の電磁波を吸収する現象(核磁気共鳴)を基礎として、物質の化学構造や物性を解析する分光学的・解析的手法である。1
この現象は1946年に物理学者のフェリックス・ブロックとエワード・ミルセル・パーセルによって独立に発見され、その後、物質の分子構造を原子レベルで解明するための不可欠な分析手段として、化学、生物学、医学などの幅広い分野で飛躍的な発展を遂げた。1
核磁気共鳴法において観測対象となるのは、質量数や原子番号の組み合わせによりゼロではない核スピンを持つ原子核であり、代表的なものとして生体や有機化合物に多く含まれる水素原子核($^1\text{H}$)のほか、炭素原子核($13\text{C}$)、窒素原子核($15\text{N}$)、リン原子核($31\text{P}$)などが挙げられる。1
これらの原子核を強力な外部磁場の中に置くと、核スピンのエネルギー準位が分裂するゼーマン分裂が起こり、それぞれの準位間に対応するエネルギー差が生じる。1
ここに特定の周波数を持つ高周波(ラジオ波)を照射すると、エネルギーの共鳴吸収が引き起こされ、低エネルギー準位にあった原子核が高エネルギー準位へと励起される。1
照射を停止した後に原子核が元の熱平衡状態に戻る過程で放出される信号を核磁気共鳴信号(自由誘導減衰信号:FID)として検出し、フーリエ変換などの数学的処理を施すことによってスペクトルを得ることができる。1
核磁気共鳴法が分子構造解析において極めて強力である理由は、同じ種類の原子核であっても、それが置かれている化学的環境(周囲の電子の分布や結合状態)によって受ける有効な磁場が微妙に異なり、共鳴周波数にずれ(化学シフト)が生じるためである。1
さらに、隣接する原子核同士の核スピンが磁気的に相互作用を及ぼし合うことで生じるスピン結合定数の分裂パターンの解析や、空間的に近接する原子核間での磁気的エネルギー移動を捉えるNOE(核Overhauser効果)の測定により、分子の立体配置や三次元的な空間構造を詳細に決定することが可能となる。1
生物学および構造生物学の領域では、タンパク質や核酸(DNAやRNA)といった生体高分子の溶液状態における立体構造の決定、動的挙動の解析、および他の分子との相互作用解析などに核磁気共鳴法が広く応用されている。2
結晶化が困難であるためにX線結晶構造解析の適用が難しい膜タンパク質や天然変性タンパク質の研究においても、核磁気共鳴法は原子レベルの情報を得るための重要な手法として活用されている。2
加えて、生体組織や細胞を破壊せずに代謝物の変化や分子動態を非破壊で測定するin vivo NMRや、この核磁気共鳴の原理を医療診断用に応用して人体内部の断層画像を撮影する磁気共鳴画像法(MRI)など、医学・医療の現場に直結する発展形も数多く存在する。1