HEALTH WORDS / 用語解説
AZFa
AZFa region
AZFaとは、Y染色体の長腕(Yq11)に位置する無精子症因子(Azoospermia factor)領域の3つの主要な遺伝子座のうちの一つである。1
ヒトのY染色体は男性特異的な領域であり、性決定遺伝子であるSRYのほか、精子形成に必須の多数の遺伝子が存在している。2
AZF領域は減数分裂や精子形成の過程においてきわめて重要な役割を担っており、この領域内の微小欠失(マイクロデリーション)は非閉塞性無精子症や重篤な乏精子症などの男性不妊を引き起こす主要な原因の一つとして知られている。3
AZF領域は分子生物学的な解析により、セントロメア側から端粒側に向かってAZFa、AZFb、AZFcの3つの領域に分類されている。4
それぞれの領域には異なる遺伝子群が座乗しており、欠失する領域によって臨床像や精子回収率が異なることが分子遺伝学的な研究によって明らかにされている。5
このうちAZFa領域はAZF領域の最も近位側(セントロメア側)に位置しており、約1メガベース(Mb)のゲノムサイズを持つ領域である。6
AZFa領域内にはUSP9YやDDX3Yといった男性不妊に関連する主要な責任遺伝子が存在している。7
USP9Yはユビキチン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子であり、タンパク質の分解制御を介して精子形成の維持に関与していると考えられている。8
また、DDX3YはDEAD-box型RNAヘリカーゼをコードしており、RNAの代謝や翻訳調節を通じて精巣における細胞増殖や分化に不可欠な役割を果たしている。9
AZFa領域に欠失が生じた場合、これらの必須遺伝子が完全に失われるため、精巣組織診においてはセルトリ細胞症候群(Sertoli cell-only syndrome)という所見が観察されることが多く、精子形成が完全に停止した状態となる。5
そのため、AZFa領域の完全な欠失が認められる患者においては、精巣内精子採取術(TESE)などの補助生殖医療技術を用いても、精子を回収できる可能性は極めて低いとされている。10
男性不妊の診療においては、無精子症や重度乏精子症の原因を特定するために、末梢血を用いた染色体検査やY染色体微小欠失検査(AZF微小欠失検査)が実施される。7
これらの遺伝子検査によってAZFa領域の異常が発見された場合、治療方針の決定や予後予測、さらには次世代シーケンサーなどを活用した遺伝カウンセリングにおいて重要な指標となる。5
参考文献・出典
- 産総研 生命工学情報館: https://www.dbcls.rois.ac.jp/virdb/ganet/biomed/data/h03332.htm ↩
- National Center for Biotechnology Information: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK22229/ ↩
- 国立成育医療研究センター: https://www.ncchd.go.jp/hospital/section/mcf/reproduction/male_infertility.html ↩
- 日本生化学会: https://www.jbs.or.jp/zakki/no_121/121_specialty_02.pdf ↩
- 日本人類遺伝学会: https://www.jshg.jp/file/guideline/male_infertility_gl_2016.pdf ↩1 ↩2 ↩3
- European Association of Urology: https://uroweb.org/guidelines/sexual-and-reproductive-health ↩
- 日本泌尿器科学会: https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/31_male_infertility_v2.pdf ↩1 ↩2
- National Library of Medicine: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/8287 ↩
- 国立遺伝学研究所: https://www.nig.ac.jp/nig/ja/ ↩
- 日本生殖医学会: https://www.jsrm.or.jp/guideline/2021.pdf ↩