HEALTH WORDS / 用語解説
HDAC阻害剤
Histone deacetylase inhibitor
HDAC阻害剤とは、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の酵素活性を特異的に阻害する低分子化合物の総称である。1
真核生物の細胞内において、DNAはヒストンと呼ばれる蛋白質の周囲に巻きついてクロマチン構造を形成している。2
通常、ヒストンのリシン残基がアセチル化されると、DNAとヒストンの間の静電的相互作用が弱まり、クロマチン構造が弛緩することで転写因子やRNAポリメラーゼなどの転写に関与する分子がDNAへアクセスしやすくなり、遺伝子発現が活性化される。((先端バイオイメージング支援プラットフォーム: https://)}.
これに対し、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、ヒストン尾部のリシン残基からアセチル基を除去する触媒反応を担う。1
HDACがアセチル基を除去すると、ヒストンとDNAが強固に結合してクロマチンが凝縮するため、遺伝子発現が抑制(サイレンシング)される方向へ調節される。2
HDAC阻害剤は、このHDACの働きを競合的あるいは非競合的にブロックすることで、ヒストンの過剰な脱アセチル化を防ぎ、結果としてアセチル化状態を維持または増加させる。1
ヒストンの過剰なアセチル化は、特定の遺伝子、特に細胞周期停止、アポトーシス誘導、分化促進に関与する遺伝子群の転写を再活性化させる作用を持つ。3
この分子メカニズムにより、HDAC阻害剤は腫瘍細胞の異常な増殖を抑え、細胞死を誘導する抗腫瘍効果を示すことから、がん治療薬としての研究開発および臨床応用が活発に進められてきた。3
構造的な特徴や阻害形式の違いから、HDAC阻害剤はヒドロキサム酸誘導体、環状ペプチド、脂肪酸誘導体、ベンズアミド誘導体などのいくつかの化学的クラスに大別される。1
これまでに悪性リンパ腫や多発性骨髄腫などの血液がんを対象として、複数のHDAC阻害剤が医薬品として承認され、臨床現場で利用されている。3
また、固形がんに対する単独療法あるいは他の抗悪性腫瘍剤や免疫チェックポイント阻害剤との併用療法に関する臨床試験も数多く実施されている。1
さらに、がん領域にとどまらず、中枢神経系疾患、神経変性疾患、自己免疫疾患、心血管疾患など、エピジェネティクスの異常が関与する多様な疾患に対する治療薬としての可能性についても広範な基礎研究が続けられている。1
参考文献・出典
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907026723225884 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
- NBDC ライフサイエンスデータベース統合テレビジョン: https://togotv.dbcls.jp/ja/togotv.2023.html ↩1 ↩2
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構: https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/ ↩1 ↩2 ↩3