HEALTH WORDS / 用語解説
キナーゼカスケード
Kinase cascade
キナーゼカスケードとは、あるプロテインキナーゼ(タンパク質リン酸化酵素)が別のプロテインキナーゼをリン酸化して活性化するという一連の反応が、滝(カスケード)のように連続的に伝達されていくシグナル伝達の仕組みのことである。1
細胞外からの様々なシグナルや増殖因子、ストレスなどの刺激は、細胞膜上の受容体を介して細胞内に伝えられる。2
この刺激を受けた受容体や初期の分子が起点となり、不活性型のキナーゼがリン酸化によって次々に活性型へと変換されることで、情報が細胞質から核へと効率よく運ばれる。3
代表的なキナーゼカスケードの一つとして、MAPKカスケード(マイトジェン活性化プロテインキナーゼカスケード)が広く知られている。1
このMAPKカスケードでは一般的に、最上流のMAPKキナーゼキナーゼ(MAPKKK または MEKK)が活性化され、それが下流のMAPKキナーゼ(MAPKK または MEK)をリン酸化して活性化する。4
さらに活性化したMAPKキナーゼが、最終的な標的であるMAPK(ERK、JNK、p38など)をリン酸化することで、カスケードの終端へとシグナルが到達する。2
このようにリン酸化のカスケードを多段階で経由する意義の一つは、シグナルの増幅にある。3
少量のリガンドやシグナル分子が受容体に結合しただけでも、下流の段階が進むにつれて活性化される分子の数が幾何学的に増加するため、微弱な細胞外シグナルに対しても敏感かつ強烈に応答することが可能となる。2
また、多段階の制御機構が存在することで、シグナル伝達の特異性やフィードバック制御、クロストーク(他のシグナル伝達経路との相互作用)が精密に行われる基盤が提供されている。1
キナーゼカスケードによって最終的にリン酸化されたタンパク質や転写因子は、遺伝子発現の調節、細胞周期の進行、細胞増殖、分化、さらにはアポトーシス(細胞死)といった多様な細胞応答を引き起こす。2
このシステムに何らかの遺伝子変異や異常な活性化が生じると、細胞の無秩序な増殖を招き、がんをはじめとする様々な疾患の原因となることが知られている。3
そのため、多くの分子標的薬や抗がん剤は、このキナーゼカスケードを構成する特定のキナーゼの活性を阻害することを目的として開発されている。2
参考文献・出典
- KEGG PATHWAY: https://www.kegg.jp/pathway/map04010 ↩1 ↩2 ↩3
- NCI Dictionary of Cancer Terms: https://www.cancer.gov/publications/dictionaries/cancer-terms/def/kinase-cascade ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
- Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%82%AB%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%89 ↩1 ↩2 ↩3
- Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%B8%E3%83%B3%E6%B4%BB%E6%80%A7%E5%8C%96%E3%83%97%。ロジック上不備な点があるため一般的な記述に留める ↩