ホームキナーゼ阻害剤

HEALTH WORDS / 用語解説

キナーゼ阻害剤

Kinase Inhibitor

キナーゼ阻害剤とは、タンパク質にリン酸基を転移する反応を触媒する酵素であるキナーゼ(プロテインキナーゼ)の働きを特異的に妨げる低分子化合物や分子標的薬などの総称である。1

生体内においてキナーゼは、ATPの末端リン酸を標的タンパク質の水酸基などに転移するリン酸化反応を仲介しており、シグナル伝達、細胞増殖、代謝、アポトーシスといった多様な細胞機能の調節において中心的な役割を果たしている。2

特にがん細胞においては、特定のプロテインキナーゼが過剰に活性化または変異することによって、無秩序な細胞増殖や生存シグナルの持続的亢進を引き起こしているケースが多く知られている。3

キナーゼ阻害剤は、このキナーゼの活性部位やATP結合部位などに結合することで、その酵素活性を競合的あるいは非競合的に抑制し、異常なシグナル伝達経路を遮断する働きを持つ。4

分子標的治療薬の主要な一分類として位置づけられており、従来の細胞障害性抗悪性腫瘍薬と比較して、標的とする分子の異常に依存している細胞を選択的に攻撃できる特徴を有している。5

臨床医学の分野においては、慢性骨髄性白血病をはじめとする様々な悪性腫瘍に対する分子標的薬として数多くの薬剤が開発され、がん治療の成績向上に大きく寄与している。6

また、悪性腫瘍だけでなく、関節リウマチやアトピー性皮膚炎などの免疫系疾患や炎症性疾患に関与するヤスキナーゼ(JAK)などを標的とした阻害薬も開発され、臨床現場で広く応用されている。7

創薬研究の領域では、目的とするキナーゼに対する高い選択性の獲得や、長期間の投与によって生じる薬剤耐性の克服が重要な課題となっており、構造生物学的な解析に基づいた次世代型阻害剤の開発が盛んに行われている。8

参考文献・出典

  1. PMDA 医薬品評価審議会報告書: https://www.pmda.go.jp/files/000215779.pdf ↩
  2. 独立行政法人 科学技術振興機構 J-GLOBAL: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907026219808602 ↩
  3. 国立がん研究センター がん情報サービス: https://ganjoho.jp/med_pro/cancer_control/lt/drug_therapy/dt01.html ↩
  4. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 審査報告書: https://www.pmda.go.jp/drugs/2019/P20190827003/170042000_30100AMX00159_B107_1.pdf ↩
  5. 国立がん研究センター 中央病院: https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/oncology/department/chemotherapy/010/index.html ↩
  6. 日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン: https://www.jshem.or.jp/gui/docs/guideline_20230616.pdf ↩
  7. 一般社団法人 日本リウマチ学会 リウマチ白書: https://www.ryumachi-jp.com/general/about/ryumachi-hakusho/ ↩
  8. 文部科学省 科学技術・学術政策研究所: https://www.nistep.go.jp/archives/47518 ↩