HEALTH WORDS / 用語解説
スライディングフィラメント説
Sliding Filament Theory
スライディングフィラメント説とは、骨格筋などの筋収縮メカニズムを説明する最も広く受け入れられている学説であり、筋原線維を構成する筋フィラメントのうちアクチンフィラメントがミオシンフィラメントの間を滑り込むことで筋肉が短縮するというモデルである。1
この説は1954年に、ヒュー・ハックスレー(Hugh Huxley)とジェーン・ハンセン(Jean Hanson)、およびアンドリュー・ハックスレー(Andrew Huxley)とラルフ・ニーダーゲルケ(Ralph Niedergerke)という2つの研究グループによって独立に提唱された。2
骨格筋の内部には筋節(サルコメア)と呼ばれる基本単位が無数に直列に並んでおり、これが筋収縮の構造的単位となっている。1
筋節はZ線によって区切られており、その内部には太いミオシンフィラメントと細いアクチンフィラメントが規則正しく重なり合って配置されている。3
筋収縮が起こる際、筋小胞体からカルシウムイオンが細胞質基質へと放出されることが引き金となる。1
放出されたカルシウムイオンは、アクチンフィラメント上に存在するトロニン(トロポニン)複合体に結合する。1
この結合によってトロポミオシンの位置が移動し、これまで隠されていたミオシン結合部位がアクチン上に露出することになる。1
ミオシンの頭部であるミオシンヘッドは、露出したアクチンの結合部位と結合してクロスブリッジを形成する。1
クロスブリッジが形成されると、ATP(アデノシン三リン酸)の加水分解に伴うエネルギーを利用してミオシンヘッドが首を振り、アクチンフィラメントを筋節の中心方向へ引き寄せる。1
この一連の化学反応と物理的な構造変化により、アクチンフィラメントがミオシンフィラメントに沿って滑走し、筋節全体の長さが短縮する。2
この滑走運動の際、アクチンフィラメント自体の長さやミオシンフィラメント自体の長さは変化せず、両者の重なり合う領域が増加することによって筋収縮が達成される点がこの説の重要な特徴である。2
収縮の後、新たなATP分子がミオシンヘッドに結合すると、ミオシンとアクチンの結合が一時的に解除される。1
その後、ATPがADPと無機リン酸に分解されることでミオシンヘッドは元の位置に戻り、再び次のアクチン結合部位と結合可能な状態となる。1
このサイクルの繰り返しは「クロスブリッジサイクル」と呼ばれ、筋肉が収縮している間はカルシウムイオンとATPが存在する限り継続的に行われる。1
神経刺激が停止すると、カルシウムイオンは能動輸送によって再び筋小胞体へと回収される。1
細胞質基質中のカルシウムイオン濃度が低下すると、トロポミオシンが再びアクチン上の結合部位を覆い隠し、ミオシンとの結合が阻止されることで筋肉は弛緩する。1
このように、スライディングフィラメント説は生体内の分子モーターとしてのミオシンの働きと、イオンによる厳密な調節機構を結びつけることで、筋収縮現象を分子レベルで完全に説明することに成功した。1
参考文献・出典
- Muscle contraction and sliding filament theory: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK538493/ ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13
- The mechanism of muscular contraction: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/13156950/ ↩1 ↩2 ↩3
- Anatomy, Thorax, Cardiac Muscle: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK459247/ ↩