HEALTH WORDS / 用語解説
トポイソメラーゼII
Topoisomerase II
トポイソメラーゼIIとは、DNAの二重らせんのトポロジー(立体構造)を変化させ、DNA鎖の切断と再結合を触媒することでDNAの絡まりやねじれを解消する酵素である。1
生物の細胞内において、DNAは極めて長大な分子でありながら細胞核という限られた空間に収納されている。DNAの複製や転写といった生命維持に不可欠な遺伝情報の読み取り過程においては、二重らせん構造がほどけたり、DNA鎖同士が機械的に絡み合ったりする問題が生じる。トポイソメラーゼIIは、このDNA鎖の過剰なねじれや結び目をダイナミックに解消し、細胞分裂や遺伝子発現が正常に進行するための空間的・物理的な条件を整える役割を担っている。1
分子メカニズムとして、トポイソメラーゼIIはATPの加水分解に伴うエネルギーを利用して機能する。まず、一方のDNA二重らせん(G-segment)を一時的に両鎖ともに切断し、その切断された隙間をもう一方の別のDNA二重らせん(T-segment)が通過するという高度な機構を持つ。この一連の反応により、DNAの絡まりや結び目をほどくことができる。酵素反応の完了後には、切断したDNA鎖を速やかに再結合させることで、DNAのゲノム情報を損なうことなく安全に構造変化を完了させる。1
真核生物においては、トポイソメラーゼIIにはアイソフォームとして主にIIαとIIβの2種類が存在することが知られている。IIα型は細胞周期を通じて発現量が変動し、特に活発な細胞分裂が行われる時期や染色体の凝縮・分離のプロセスにおいて必須の機能を果たす。一方、IIβ型は細胞周期の進行度合いにかかわらず比較的一定のレベルで発現しており、神経細胞をはじめとする分化した細胞の機能維持や転写調節に関与していると考えられている。2
医学および薬理学の分野において、トポイソメラーゼIIは非常に重要な薬剤の標的分子となっている。がん細胞は急速かつ無秩序な細胞分裂を繰り返すため、DNAの複製や染色体の分離を担うトポイソメラーゼIIの働きに強く依存している。そのため、この酵素の働きを選択的に阻害することでがん細胞の増殖を止める抗悪性腫瘍薬(抗がん薬)が多数開発されて臨床応用されている。1
トポイソメラーゼIIを標的とする抗悪性腫瘍薬には、大別して2つの主要な作用機序が存在する。一つは、酵素とDNAの複合体に作用して切断されたDNAの再結合を阻害し、DNA鎖の切断状態を蓄積させることで細胞死を誘導する「ポイズン(毒薬)」と呼ばれるタイプであり、アントラサイクリン系薬剤やポドフィロトキシン誘導体などがこれに該当する。もう一つは、ATPの結合や酵素の触媒活動そのものを競合的に阻害する「カタラーゼ阻害薬」や「触媒阻害薬」と呼ばれるタイプである。これらの薬剤はDNAに直接損傷を与えないものの、酵素の本来の機能を発揮させなくすることで細胞周期を停止させる。2
一方で、トポイソメラーゼIIを標的とする分子標的薬や抗悪性腫瘍薬の投与においては、DNAの意図しない切断や遺伝毒性に起因する副作用が問題となることがある。代表的な副作用として、骨髄抑制や免疫系の低下、心毒性などが挙げられ、さらに長期的なリスクとしては二次性白血病の誘発などが知られている。そのため、酵素の構造的特徴やアイソフォームごとの詳細な機能の違いを標的にした、より安全で選択性の高い新規薬剤の探索や研究が現在も続けられている。2
参考文献・出典
- 独立行政法人 科学技術振興機構(JST): https://www.jst.go.jp/pr/info/info669/index.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
- 国立国会図書館インターネット資料収集事業(WARP): https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndl/pid/11100342/www.jst.go.jp/crds/pdf/2015/FR/CRDS-FY2015-FR-03/index.html ↩1 ↩2 ↩3