HEALTH WORDS / 用語解説
フソバクテリウム
Fusobacterium
フソバクテリウム属に属する菌は、両端が尖った紡錘状の形態をとることが特徴的であり、ヒトや動物の口腔、消化管、女性の生殖器などの常在菌叢を構成する重要なメンバーとして知られている。1
通常の状態では宿主に対して直接的な害を及ぼさない日和見感染の側面を持つが、免疫機能の低下や組織の物理的な損傷などを契機として、日和見感染症の原因病原体となることがある。2 特に代表的な菌種であるフソバクテリウム・ネクロフォールム(Fusobacterium necrophorum)やフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)などは、臨床医学において様々な疾患との関連が深く、詳細な細菌学的な解析が進められている。1
フソバクテリウム・ネクロフォールムは、若年者における重篤な咽頭炎や扁桃炎に続発して内頸静脈の血栓性静脈炎を引き起こし、全身の多発性膿瘍を形成するレミエール症候群(Lemierre's syndrome)の主要な原因細菌として広く認識されている。2 この症候群は、初期の一般的な上気道感染症状から急激に悪化し、敗血症や転移性肺腫瘍様の病変、胸水貯留などを引き起こす危険性があるため、迅速な診断と適切な抗菌薬を用いた治療が必要とされる。2
また、フソバクテリウム・ヌクレアタムは、ヒトの口腔内において歯周病の進展に関与するプラーク(歯垢)の主要な構成菌種の一つである。3 この細菌は、口腔内の他の多様な細菌と物理的に凝集する能力(共凝集能)に優れており、バイオフィルムの形成において土台や橋渡し役として機能することで、歯周組織の炎症や破壊を促進する病原性を発揮する。3
さらに近年では、口腔内の常在菌であるフソバクテリウム・ヌクレアタムが血流を介して遠隔臓器に移行し、特に大腸癌の組織内において高頻度に検出されることが国内外の学術論文等で多数報告されている。3 この腫瘍組織内における細菌の存在は、局所的な免疫抑制細胞の遊走を促したり、癌細胞の増殖や転移に関与する特定のシグナル伝達経路を活性化させたりするなど、腫瘍の微小環境に大きな影響を与えていることが示唆されている。3
このように、フソバクテリウム属の細菌は、通常の生体防御においては単なる常在菌として存在しているものの、特殊な条件下では局所感染から全身性疾患、さらには悪性腫瘍の進展にまで関与する多面的な生物学的特性を有している。1 嫌気性菌であるため通常の培養検査では検出に時間がかかる場合や見逃される場合もあり、遺伝子解析技術や質量分析法などの高度な検査手法の導入が進められている。2
参考文献・出典
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907001476149176 ↩1 ↩2 ↩3
- 厚生労働省 難治性疾患克服研究事業: https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/13303101 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201307019688484197 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4