HEALTH WORDS / 用語解説
乏突起膠腫
Oligodendroglioma
乏突起膠腫とは、中枢神経系を構成する膠細胞の一つである乏突起膠細胞に類似した細胞から構成される脳腫瘍の一種であり、主に脳実質(大脳半球など)の白質に発生する神経上皮性腫瘍である。1 世界保健機関(WHO)の中枢神経系腫瘍分類において膠腫(グリオーマ)の一つに分類されており、緩徐な経過をたどる低悪性度のタイプから、急速に増悪する高悪性度のタイプまでが存在する。2
乏突起膠腫の発生頻度は原発性脳腫瘍全体の中では比較的稀であり、成人のテント上腫瘍、特に前頭葉や側頭葉などの大脳皮質・白質領域に好発する傾向が認められる。1 発症年齢としては30代から50代の成人に多く見られ、小児における発生は比較的少ないとされている。2
臨床的な症状としては、腫瘍の発生部位や大きさ、周囲への圧迫あるいは脳浮腫の程度に応じて多様な神経症状を引き起こす。1 最も高頻度に見られる初期症状の一つがてんかん発作であり、痙攣発作を契機として画像検査が行われ発見されるケースが多く存在する。2 その他にも、頭蓋内圧亢進症状に伴う持続的な頭痛、悪心、嘔吐のほか、認知機能障害、精神症状、腫瘍の局在に応じた運動麻痺や感覚障害、失語などの巣症状が認められる場合がある。1
画像診断においては、磁気共鳴画像法(MRI)検査やコンピュータ断層撮影(CT)検査が極めて重要な役割を果たしている。1 CT画像では境界が比較的明瞭な低吸収域として描出されることが多く、腫瘍内には石灰化が高頻度に観察される特徴がある。1 MRI検査では、T1強調画像で低信号、T2強調画像やFLAIR画像で高信号を示す領域として確認され、造影剤による造影効果は乏しいものから不均一なものまで様々である。1
確定診断および病理組織学的な診断には、外科的切除または生検によって採取された腫瘍組織を用いた病理組織検査が必須となる。1 顕微鏡下での組織像では、均一な大きさの円形核を持ち、細胞質が周囲にハロー状に抜けたハニーコム構造(蜂巣状構造)と呼ばれる特徴的な細胞形態が観察される。1 また、しばしばニワトリの柵状血管に比喩される特徴的な微小血管の増生や、石灰化の沈着が認められるのも病理学的な特徴である。1
近年の分子病理学の進歩に伴い、乏突起膠腫の診断および治療方針の決定、予後予測においては遺伝子異常の検索が極めて重視されている。1 特に、第1染色体短腕(1p)と第19染色体長腕(19q)の共欠失(1p/19q共欠失)が本疾患の分子遺伝学的特徴であり、これが認められることが診断の大きな根拠となる。1 加えて、イソクエン酸脱水素酵素(IDH)遺伝子(IDH1またはIDH2)の変異が存在することも、近年の分類において不可欠な要素とされている。1
治療法としては、患者の全身状態、年齢、腫瘍の悪性度、遺伝子変異の有無、および神経機能温存の観点を考慮しながら、外科手術、放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的治療が実施される。1 外科的切除においては、周囲の正常脳組織の機能を温存しつつ、可能な限り安全に多くの腫瘍を取り除く最大摘出術が目指される。2 手術による摘出後、あるいは手術が困難な場合には、病理診断や分子診断の結果に基づいて、放射線照射や抗悪性腫瘍薬を用いた薬物療法が追加される。