HEALTH WORDS / 用語解説
乳腺細胞
乳腺細胞とは、哺乳類の乳腺を構成する細胞の総称であり、乳汁の合成や分泌を担う上皮細胞およびそれを支える筋上皮細胞などを指す。1
乳腺はホルモンの厳密な制御を受けて発達および分化する組織であり、その大部分は乳房内の脂肪組織のなかに埋め込まれるように存在している。1
乳腺細胞には大きく分けて、乳汁を直接産生して乳腺管の内腔へと分泌する腺上皮細胞(肺胞上皮細胞または管状腺上皮細胞とも呼ばれる)と、オキシトシンなどの刺激に応じて収縮し、分泌された乳汁を乳頭方向へと送り出す筋上皮細胞が存在している。1
これらの乳腺細胞は、妊娠期および授乳期において著しい増殖と分化のプロセスを経ることになる。1
妊娠が成立すると、プロゲステロンやエストロゲン、さらにプロラクチンなどの内分泌学的シグナルが協調して働き、乳腺の小葉構造や導管系が複雑に枝分かれしながら発達する。1
分娩後にはプロラクチンの作用が優位になり、乳腺細胞内でのタンパク質、脂質、乳糖といった乳汁成分の合成が急激に亢進し、哺乳のための泌乳が本格的に開始される。1
一方で、授乳期間が終了して離乳を迎えると、不要となった乳腺細胞はアポトーシス(プログラムされた細胞死)と呼ばれる現象によって大量に除去され、組織全体が妊娠前の状態に近い大きさと構造へと退縮するインボリューション(退行期)の過程をたどる。1
このように、乳腺細胞はホルモン環境の変化に応じてダイナミックに代謝や形態を変化させる特性を持っている。1
また、乳腺細胞は様々な疾患の発生母地ともなり得る組織である。2
特に女性における代表的な悪性腫瘍である乳がんの大部分は、乳腺管や小葉を裏打ちしている上皮細胞、すなわち乳腺細胞の悪性化に起因して発生することが知られている。2
乳腺細胞が遺伝子変異などを蓄積してがん化すると、無秩序な増殖や浸潤、転移能力を獲得し、臨床的に腫瘤や石灰化といった病変として発見されることとなる。2
乳腺細胞の増殖や分化のメカニズム、ならびにがん化のプロセスを解明することは、乳がんの早期発見、予防、および新規治療薬の開発において極めて重要な医学的課題となっている。2