HEALTH WORDS / 用語解説
胸膜頂
cupula pleurae
胸膜頂とは、壁側胸膜のうち最上部に位置し、肺尖部を覆うドーム状の部分である。1 胸膜は肺を包み込む漿膜であり、そのうち胸壁の内面を覆う部分が壁側胸膜と呼ばれる。2 その壁側胸膜の最上部は、鎖骨の内側上方に向かって突出しており、この突出したドーム状の領域が胸膜頂と称される。1 成人においては、胸膜頂の位置はおおむね鎖骨の内側1/3の部位の直上、あるいは第一肋骨の高さから数センチメートル上方にまで達することが知られている。2
胸膜頂の周囲には、人体の頸部から胸部にかけて重要な血管や神経などの解剖学的構造が多数隣接している。1 具体的には、鎖骨下動脈や鎖骨下静脈、腕神経叢、さらに迷走神経や交感神経幹などが胸膜頂の前方や上方を通過あるいは近接して走行している。2 また、胸膜頂の前内側には内胸動脈などが位置するなど、非常に密接した位置関係にある。1
このように胸膜頂が頸部の根元に位置しているという解剖学的特徴から、この領域は臨床医学や外科手術の分野において特に重要視される。1 例えば、頸部や鎖骨下部における外科的処置、中心静脈穿刺、あるいは神経ブロックなどの医療手技を行う際には、胸膜頂を損傷しないように細心の注意を払う必要がある。2 もしこの胸膜の最上部が穿刺などの原因によって傷つけられると、胸膜腔内に空気が漏れ出して気胸(特に外傷性気胸や緊張性気胸)を引き起こすリスクが生じる。1
さらに、胸膜頂の周囲には胸膜結合組織や胸膜様靭帯(胸膜上膜、あるいはシブラ靭帯とも呼ばれる筋膜組織)が附着しており、これらが周囲の頸椎の横突起や第一肋骨から胸膜頂を吊り上げるように固定している。2 この胸膜上膜は、胸郭の上口を塞ぐ筋膜の一部であり、吸気時における胸腔内圧の陰圧変化に対抗して胸膜頂が上方へ過度に引き上げられるのを防ぐ役割を担っている。2
病理学的な観点においては、胸膜頂の領域は肺尖部に発生する腫瘍、いわゆるPancoast腫瘍(パンコースト腫瘍)などの悪性腫瘍が浸潤しやすい場所としても知られている。1 肺尖部に生じた腫瘍が成長して胸膜頂を越えて周囲の交感神経節(星状神経節など)や腕神経叢を巻き込むと、ホルネル症候群や上肢の疼痛、知覚障害といった特有の臨床症状を引き起こすことがある。2 このように、胸膜頂はわずかな面積の構造物ではあるものの、呼吸器系の構造的維持だけでなく、臨床解剖学および胸部外科学において極めて重要な意義を持つ部位である。1