HEALTH WORDS / 用語解説
脱分化
dedifferentiation
脱分化とは、特殊な機能や形態を持つ分化した細胞が、その特性を失い、より未分化な状態へと逆戻りする生物学的な現象のことである。1
多細胞生物の発生過程において、細胞は一度特定の組織や器官を形成するために固有の形態や機能を獲得する分化の道を進む。しかし、特定の刺激や環境変化が加わると、細胞はこの分化のプログラムを逆行させることがあり、これが脱分化と呼ばれる現象の本質である。2
植物の組織培養において、脱分化は極めて重要な役割を果たしている。植物の成熟した組織や器官の細胞を切片として培地上で培養すると、細胞は分化した状態を解除して旺盛な分裂能力を取り戻す。この過程によって形成されるのが、未分化な細胞の集塊であるカルスである。カルスを形成した細胞は、適切な植物ホルモンの刺激を与えることによって再び再分化し、新しい芽や根を形成して完全な個体へと再生することが可能になる。1
一方、動物における脱分化は植物とは異なる側面を持つ。イモリなどの一部の動物では、肢の再生などの組織修復の際に、成熟した細胞が脱分化して未分化な細胞を生み出し、それが再分化することで組織を復元する能力が備わっている。1
しかし、ヒトをはじめとする哺乳類の細胞においては、脱分化は疾患の発生や進行とも深く関わっている。例えば、がんの進展過程においては、正常な組織の構造や機能を維持していた細胞が脱分化を引き起こし、悪性度の高い未分化な細胞へと変化することが知られている。こうした細胞は増殖能力が高く、浸潤や転移を引き起こす原因となることがある。また、動脈硬化などの病態においても、血管を構成する平滑筋細胞が収縮機能を失って脱分化し、増殖や遊走を行う表現型へと変化することが確認されている。1
このように、脱分化は生物の再生や個体発生の柔軟性を支える生理的な現象であると同時に、疾患の病態形成にも関与する複雑な生命現象であり、再生医学や腫瘍学などの幅広い分野で研究が進められている。2
参考文献・出典
- J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902061241199347 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
- 独立行政法人科学技術振興機構: https://www.jst.go.jp/PR/gazou/kako/h14/h14_05/h14_05_02.html ↩1 ↩2