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HEALTH WORDS / 用語解説

細胞の分化

Cellular differentiation

細胞の分化とは、生物の個体発生または組織の維持の過程において、単一の受精卵や幹細胞などの未分化な細胞が、特定の構造や機能を持った特異的な細胞へと変化する生物学的な過程である。1 多能性を持つ幹細胞が特定の細胞系列へと運命づけられ、最終的な分化細胞へと移行することで、生体を構成する多様な組織や器官が形成される。2

生物の発生初期において、受精卵は無限に近い分化能を有する全能性を示し、ここから胚盤胞の内部細胞塊を経て多能性を持つ胚性幹細胞(ES細胞)などが生じる。1 これらの未分化な細胞は、細胞分裂を繰り返しながら次第に分化の方向性が狭められ、中胚葉・外胚葉・内胚葉のいずれかの胚葉へと分化していく。2 この過程において、細胞は周囲の細胞外基質からのシグナルや、隣接する細胞との相互作用、さらには液性因子であるサイトカインや増殖因子などの外的刺激を受容体を介して感知する。1

細胞の分化の分子機構の核心にあるのは、ゲノムDNAの配列自体を変化させることなく、遺伝子発現のパターンを制御するエピジェネティクス的な修飾である。2 具体的には、DNAメチル化やヒストン修飾などの化学修飾が、クロマチンの構造をダイナミックに変化させ、特定の転写因子の結合しやすさを調節することで、必要な遺伝子群の転写を活性化あるいは抑制する。1 これにより、個体が持つすべての細胞が同一のゲノム情報を共有しているにもかかわらず、神経細胞、筋細胞、赤血球、上皮細胞といった、形態および機能の異なる多様な細胞が作り出されることになる。2

いったん分化が完了した細胞は、多くの場合においてその分化状態が安定して維持され、特異的なタンパク質を産生し続けることで特定の生体機能を担う。1 しかしながら、近年の分子生物学および再生医学の進展により、山中伸弥らによって開発された人工多能性幹細胞(iPS細胞)のように、分化した体細胞に特定の初期化因子を導入することで、再び多能性を持った未分化な状態へと逆戻りさせることが可能であることが示されている。2 このように、細胞の分化と脱分化(あるいは初期化)のメカニズムを解明することは、発生学的な理解だけでなく、難治性疾患に対する再生医療や創薬研究の基盤としても極めて重要な意義を持っている。1

参考文献・出典

  1. 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)ライフサイエンスデータベース統合推進センター: https://biosciencedbc.jp/db-catalog/hinv/ ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
  2. 文部科学省: https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutsu/gijyutsu3/toushin/05121302/002.htm ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5