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HEALTH WORDS / 用語解説

黄色ブドウ球菌α毒素

alpha-hemolysin

黄色ブドウ球菌α毒素とは、黄色ブドウ球菌(*Staphylococcus aureus*) が産生する主要な病原性因子の一つであり、強力な細胞溶解作用を示す外毒素(ポアフォーミング毒素)である1。

本毒素は、菌の増殖に伴って分泌される水溶性の単量体(モロマー)として産生され、標的となる宿主細胞の細胞膜上に存在する特定の受容体(特にADAM10など)に結合する性質を持つ2。

細胞膜上に結合した単量体は、膜上で互いに集合してプレポアと呼ばれるオリゴマー前駆体を形成し、その後膜貫通型の構造へと劇的なコンフォメーション変化を起こして、膜にリング状のポア(直径約1-2 nmの小孔)を穿孔する2。

このポア形成によって細胞膜の透過性が著しく亢進し、カリウムイオンなどの重要なイオンの漏出や、水分およびカルシウムイオンの急激な流入が生じるため、細胞は浸透圧のバランスを失い細胞死(ネクローシスやアポトーシス)に至る1。

黄色ブドウ球菌α毒素は多様な哺乳類の細胞に対して強い毒性を示し、特に赤血球に対しては溶血作用を示すほか、血小板、単球、上皮細胞、内皮細胞などに対しても障害を与えることが知られている2。

臨床的および病理学的な観点からは、本毒素は皮膚・軟部組織感染症における組織壊死の形成や、肺炎における肺障害および気道上皮の破壊、さらには敗血症時における血管透過性の亢進と多臓器不全の発症において極めて中心的な役割を果たしている1。

近年の研究により、単に物理的な細胞破壊を引き起こすだけでなく、低濃度では宿主細胞の特定のシグナル伝達経路を活性化し、炎症性サイトカインの産生を誘導するなど、免疫応答の制御にも深く関与していることが明らかにされている2。

このように、黄色ブドウ球菌α毒素は細菌の感染成立や病態の悪化に直結する重要な毒素蛋白であるため、その作用機序を標的とした中和抗体や阻害剤の開発など、新たな治療戦略のターゲットとしても盛んに研究が行われている1。

参考文献・出典

  1. 国立感染症研究所 感染症学雑誌: https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/202-s-aureus-intro.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
  2. 日本細菌学雑誌: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsb/65/1/65_1_27/_pdf ↩1 ↩2 ↩3 ↩4