HEALTH WORDS / 用語解説
PRDM16
PR domain containing 16
PRDM16とは、転写因子およびエピジェネティックなコアギュレーターとして機能し、哺乳類の発生や細胞分化、特に褐色脂肪細胞や筋由来脂肪細胞(ベージュ脂肪細胞)の分化誘導において中心的な役割を果たすタンパク質およびそれをコードする遺伝子である。1
PRDM16遺伝子は、ヒトでは1p36領域に染色体座を有しており、分子量やアミノ酸配列の解析から、PRドメインを持つPRDMファミリーに属している。2
本分子はDNA結合モチーフやヒストンメチルtransferase活性を制御するドメインを保持しており、C/EBPファミリーなどの他の転写因子と複合体を形成することで、脂肪酸酸化や熱産生に関連する遺伝子群の転写活性化を強力に引き起こす。3
生体内におけるPRDM16の最も顕著な機能の一つは、褐色脂肪組織および白色脂肪組織におけるベージュ脂肪細胞(brite細胞)の分化制御である。4
骨格筋前駆細胞や脂肪前駆細胞においてPRDM16が強制発現あるいは活性化されると、非効率的なエネルギー貯蔵を行う白色脂肪細胞の性質から、ミトコンドリアを豊富に含み熱産生を行う褐色脂肪様細胞への形質転換(褐色化またはベージュ化)が誘導される。5
この熱産生メカニズムにはUCP1(脱共役タンパク質1)の発現上昇が深く関与しており、PRDM16はこのUCP1遺伝子のエンハンサー領域に作用して転写を促進する。6
このため、PRDM16を標的とした創薬や遺伝子工学的手法は、肥満、2型糖尿病、およびその他の代謝性疾患に対する新規治療法の開発において重要な研究対象となっている。7
また、脂肪組織における代謝制御だけでなく、PRDM16は頭蓋顔面の発生や神経発生、さらには造血幹細胞の維持においても必須の役割を果たしていることが明らかにされている。8
発生学的研究において、PRDM16の欠損や変異は頭蓋骨の縫合早期癒合症(頭蓋骨縫合早期癒合症)や難聴などの先天性異常を引き起こすことが示されている。9
さらに、腫瘍生物学の分野においては、PRDM16は白血病などの血液悪性腫瘍や一部の固形がんにおいて、染色体転座や発現異常を介してがん抑制遺伝子あるいはがん遺伝子として二面性を持って関与していることが報告されている。10
このように、PRDM16はエネルギー代謝、細胞分化、個体発生、および疾患病態の多岐にわたる生命現象を統合的に調節する極めて重要な因子である。11
参考文献・出典
- Genetics Home Reference: https://medlineplus.gov/genetics/gene/prdm16/ ↩
- NCBI Gene: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/63976 ↩
- NCBI Bookshelf: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK532279/ ↩
- Nature Reviews Molecular Cell Biology: https://www.nature.com/articles/nrm3652 ↩
- Cell Metabolism: https://www.cell.com/cell-metabolism/fulltext/S1550-4101(12)00392-4 ↩
- JCI Insight: https://insight.jci.org/articles/view/120306 ↩
- Nature: https://www.nature.com/articles/nature08262 ↩
- Development: https://dev.biologists.org/content/141/19/3705 ↩
- Human Molecular Genetics: https://academic.oup.com/hmg/article/21/20/4389/607312 ↩
- Blood: https://ashpublications.bloodjournal.org/content/116/20/4113 ↩
- Cell: https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(08)00693-X ↩