HEALTH WORDS / 用語解説
アクチニウム225
Actinium-225
アクチニウム225とは、近年がん治療、特に標的アイソトープ治療(TRT)の分野において大きな注目を集めている放射性同位元素(ラジオアイソトープ)の一種である。1
アクチニウム225は、原子番号89、質量数225を持つアクチニウムの同位元素であり、主としてアルファ線を放出して崩壊する原子核の特性を持っている。2
この核種が医療応用において極めて有望視されている最大の理由は、それが放出するアルفا線の物理的性質に由来している。1
アルفا線はベータ線やガンマ線と比較して組織内での飛程が非常に短く、数細胞分の距離しか進まないため、がん細胞などの標的とする細胞ピンポイントに対して集中的かつ強力な放射線のエネルギーを付与することが可能である。1
これにより、周囲の正常な組織や臓器に対する被ばくを最小限に抑えつつ、腫瘍に対して高い治療効果を発揮することが期待されている。1
また、アクチニウム225は崩壊の過程において複数の娘核種を経由しながら最終的に安定な鉛へと変化するが、その一連の崩壊連鎖の中で複数個のアルفا線を放出し得る特性を持っており、これが治療上の大きなアドバンテージとなっている。2
臨床的な応用においては、アクチニウム225を特定の抗体やペプチド、低分子化合物などのキャリアとなる分子に結合(標識)させることによって、体外から投与された際に病変部位を特異的に認識して集積する薬剤が設計される。1
このような手法はセラノスティクス(診断と治療の融合)やアルفا核種セラノスティクスの一環として研究が進められており、従来の治療法では効果が不十分であった難治性がんや転移性がんに対する新しい治療選択肢としての臨床試験や治験が世界各国で精力的に実施されている。1
一方で、アクチニウム225は自然界における存在量が極めて微量であるため、医療や研究に必要な量を確保するためには人工的な製造技術が不可欠となる。2
従来はトリウムの放射性崩壊にともなうジェネレータからの採取や、サイクロトロンおよび加速器を用いた陽子線や粒子線による核反応を利用した製造方法が研究・開発されてきたが、安定したサプライチェーンの構築と供給体制の確立は世界的にも重要な課題となっている。2
日本国内においても、将来的な需要の増大と臨床現場への安定供給を見据えて、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構をはじめとする研究機関や大学、民間企業が連携し、国内での製造基盤の確立や製造技術の高度化に向けた実証実験や開発が進められている。1