HEALTH WORDS / 用語解説
グラミシジンB
Gramicidin B
グラミシジンBとは、土壌細菌であるバチルス・ブレービス(Bacillus brevis)が産生する、直鎖状のペプチド系抗生物質であるグラミシジン複合体の主要な成分の一つである。1
グラミシジン類は、ペプチド鎖の構成アミノ酸の配列のわずかな違いにより、A、B、Cなどの同族体(アナローグ)が存在し、グラミシジンBはその中でバリンまたはイソロイシンなどのアミノ酸残基の組成に特徴を持つ天然物由来の抗生物質として知られている。1
化学構造上の特徴として、グラミシジンBはD-アミノ酸とL-アミノ酸が交互に結合したペプチド骨格を持ち、両端がホルミル化およびアミノアルコールで修飾された特異な構造を有している。2
この特異な一次構造により、グラミシジンBは脂質二重層からなる生体膜の内部へと容易に挿入され、膜を貫通するチャネル(イオノフォア)を形成する物理化学的性質を示す。2
形成されたチャネルは一価の陽イオン、特にナトリウムイオンやカリウムイオンなどのアルカリ金属イオンに対して高い透過性を示し、細胞膜を介したイオンの濃度勾配を破壊する作用を持つ。2
このようなイオンモルフォロジーの撹乱と膜電位の消失は、細菌の代謝活動やエネルギー産生機構に重大な障害を与え、最終的に抗菌活性を発揮するメカニズムの基盤となっている。2
しかしながら、グラミシジンBを含むグラミシジン混合物は、赤血球に対する強い溶血作用をはじめとする高い毒性(細胞毒性)を示すため、全身投与による医薬品としての利用は極めて困難である。1
そのため、その臨床的な応用範囲は限定されており、主として皮膚感染症や眼科領域などにおける局所投与用の外用薬の成分として、チロトリシンなどの他のペプチド抗生物質と組み合わせて利用されることがある。1
生化学および生物物理学の研究分野においては、グラミシジンBは膜タンパク質の構造解析、脂質二重膜の物性研究、およびチャネルを通じたイオン透過機構を解明するための重要なモデル分子として広く活用されている。2