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HEALTH WORDS / 用語解説

二水素葉酸

二水素葉酸(にすいそようさん、Dihydrofolate、FH2)とは、葉酸の還元体であり、ビタミンB群の一種である葉酸代謝の中間体として生体内での重要な化学反応に関与する化合物である。1

化学構造としては、pteridine環、p-アミノ安息香酸、およびグルタミン酸残基から構成される葉酸のピラジン環部分に2個の水素原子が付加した構造を持っている。1

生化学的経路においては、葉酸はジヒドロ葉酸還元酵素(Dihydrofolate reductase: DHFR)の作用によってNADPHを補酵素として還元され、テトラヒドロ葉酸(Tetrahydrofolate、FH4)へと変換される。2

このジヒドロ葉酸還元酵素による還元反応は、生体内における1C代謝(一炭素代謝)を維持するために極めて不可欠なステップであり、テトラヒドロ葉酸は様々な1C基のキャリアとして機能する。2

一方で、テトラヒドロ葉酸がメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素などの働きを介してDNA合成の前駆体であるチミジル酸を生成するチミジル酸合成酵素(Thymidylate synthase)の反応に関与する際、テトラヒドロ葉酸自体は酸化されて二水素葉酸へと戻る。3

したがって、細胞が持続的にDNAを複製し細胞分裂を行っていくためには、生成された二水素葉酸が再びジヒドロ葉酸還元酵素によってテトラヒドロ葉酸に素早く再利用(リサイクル)される必要がある。2

この生体内の葉酸循環サイクルが阻害されると、細胞のDNA合成が深刻な障害を受け、特に増殖速度の速い造血組織や小腸の粘膜細胞などに大きな影響が及ぶこととなる。2

こうした生化学的機序を利用して開発されたのが葉酸拮抗薬であり、代表的な抗悪性腫瘍薬(抗がん剤)であるメトトレキサートはジヒドロ葉酸還元酵素を強力に阻害する。4

メトトレキサートがジヒドロ葉酸還元酵素に結合してその働きを止めることで、二水素葉酸からテトラヒドロ葉酸への還元がブロックされ、結果として細胞内のテトラヒドロ葉酸が枯渇する。4

テトラヒドロ葉酸の枯渇はプリン塩基およびピリミジン塩基の合成を停止させ、癌細胞などの過剰に増殖する細胞のDNA合成を抑止して細胞死を誘導するという薬理作用を発揮する。4

また、細菌の葉酸合成系を標的とする抗菌薬であるトリメトプリムなども、細菌特異的なジヒドロ葉酸還元酵素を阻害することで細菌のDNA合成を妨げ、その増殖を抑える仕組みを持っている。5

このように二水素葉酸は、単なる代謝物質の一つとしてだけでなく、薬理学および医学の分野において抗がん剤や抗菌薬の作用機序を理解する上で中心的な役割を果たす分子として広く認識されている。2

参考文献・出典

  1. PubChem: https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Dihydrofolic-acid ↩1 ↩2
  2. MeSH: https://meshb.nlm.nih.gov/record/ui?ui=D040962 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
  3. MeSH: https://meshb.nlm.nih.gov/record/ui?ui=D013942 ↩
  4. MeSH: https://meshb.nlm.nih.gov/record/ui?ui=D008750 ↩1 ↩2 ↩3
  5. MeSH: https://meshb.nlm.nih.gov/record/ui?ui=D014227 ↩