HEALTH WORDS / 用語解説
催奇形性
Teratogenicity
催奇形性とは、妊娠中の母体を介して胚や胎児に作用し、出生後に形態的あるいは機能的な先天異常を引き起こす毒性の性質をいう。1 医薬品や化学物質、放射線、あるいは母体の感染症や栄養障害など、様々な外因が原因となり得る。2
発生学的な観点において、胚や胎児の発生過程には器官形成期と呼ばれる特に感受性の高い時期が存在する。2 一般に、受精後から着床までの期間である着床前期に外因曝露を受けた場合、胚は「全か無か」の応答を示し、多くは流産に至るか、あるいは異常を残さずに正常な発生を回復するとされている。1 これに対して、主要な臓器や組織が形成される器官形成期(ヒトではおおむね妊娠初期から第1妊娠四半期にあたる時期)は、催奇形物質による障害を受けやすく、形態異常が誘発される最大の危険期となる。2 さらに、胎児期に入ってからも中枢神経系や生殖器などの機能的な成熟や発育に対する影響が生じる場合がある。1
歴史的に催奇形性の重要性が広く認識される契機となったのは、1960年前後に発生したサリドマイドによる薬害事件である。3 睡眠薬や抗悪心薬として使用されていたサリドマイドを妊娠初期の女性が服用した結果、四肢の短縮や無肢症、耳介異常など特徴的な先天異常を持つ新生児が多数出生した。3 この悲劇を教訓として、医薬品の開発および承認審査においては、動物実験を用いた生殖発生毒性試験の実施が義務付けられるようになった。2
非臨床試験としての生殖発生毒性試験では、雌性動物の受胎能および初期胚発生に関する試験、胚・胎児発生に関する試験、ならびに出生前および出生後の発生と母体の機能に関する試験などが段階的に実施される。4 これにより、当該物質が母動物の毒性だけでなく、次世代の発生や発育、生殖機能に及ぼす影響を網羅的に評価することが可能となる。2 しかしながら、実験動物とヒトの間には種差が存在するため、動物実験で催奇形性が認められなかった物質であっても、ヒトに対して完全に安全性が保証されるわけではない点に注意が必要である。1
臨床医学および産婦人科領域においては、妊婦または妊娠している可能性のある女性に対する薬物療法の選択に際して、この催奇形性のリスク管理が極めて重要な課題となる。1 多くの医薬品の添付文書には妊婦への投与に関する禁忌や慎重投与の項目が設けられており、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与が行われる。5 また、放射線や有機溶媒、重金属などの環境因子、さらには風疹ウイルスをはじめとする感染症も催奇形物質として作用し得るため、妊娠期における適切な衛生管理と予防接種の計画が推奨されている。2
参考文献・出典
- 厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/iyakuhin_anzen/other/index_00010.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
- 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター: https://www.nihs.go.jp/TOX/repro.html ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構: https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/higaisha-救済/history/0001.html ↩1 ↩2
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構: https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/gai-kaku/0017.html ↩
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構: https://www.pmda.go.jp/files/000155277.pdf ↩