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HEALTH WORDS / 用語解説

分子チャペロン

Molecular Chaperone

分子チャペロンとは、細胞内においてタンパク質の正確な折り畳み(フォールディング)を助け、誤った折り畳みや凝集を防ぐタンパク質群の総称である。生物学や医学の分野において、細胞のタンパク質品質管理システムの中核を担う極めて重要な存在として広く認識されている。分子チャペロンという名称は、若い未亡人が社会に出る際に付き添って指導する付添人(チャペロン)に由来しており、他のタンパク質が正しい立体構造を形成するプロセスを補助する機能にちなんで名付けられた。1

多くのタンパク質は、リボソーム上でアミノ酸の鎖として合成された後、特定の三次元的な立体構造へと折り畳まれることによって初めて本来の生物活性を発揮する。しかし、細胞内は高濃度のタンパク質やその他の生体分子が密集した過密環境であり、アミノ酸配列が持つ情報だけでは、正しい立体構造へ自発的に移行することが困難な場合や、途中で不適切な結合を起こして凝集体を形成してしまうリスクが常に存在する。分子チャペロンは、こうした変性状態や未成熟な状態にあるタンパク質の疎水性領域や不安定な部位に一過性に結合し、不必要な凝集や変性を防ぎながら、エネルギー依存的に正しい構造形成を促す役割を果たす。1

分子チャペロンは、その分子量や機能的な特徴に基づいていくつかの主要なファミリーに分類される。代表的なものとして、Hsp70(熱ショックタンパク質70)、Hsp60(グルタニンやシャペロニンとも呼ばれる)、Hsp90、Hsp100、そして小型の熱ショックタンパク質(sHsp)などが挙げられる。これらの多くは熱ショックタンパク質(Hsp)の仲間として知られており、熱ストレスや酸化ストレスなどの環境悪化によって細胞内のタンパク質が変性しやすい状況に直面した際、その発現量が急激に誘導されるという共通の性質を持っている。そのため、生体を様々なストレスから守る防御機構としても機能している。2

シャペロニンと呼ばれる一群の分子チャペロンは、円筒状や樽状の巨大な複合体を形成し、その内部の空洞に未成熟なタンパク質を物理的に隔離して折り畳みを行うという高度な機構を持つ。この内部空間でATP(アデノシン三リン酸)の加水分解エネルギーを利用しながら、周囲の環境から隔離された状態で安全に立体構造を形成させることができる。これにより、細胞質内の他の分子と混ざり合って凝集してしまう危険性を完全に排除しながら、効率的な構造形成を達成することが可能となっている。1

分子チャペロンの役割は、タンパク質の初期折り畳みだけに留まらない。細胞内で古くなったり損傷を受けたりして機能不全に陥ったタンパク質を認識し、それを再び修復を試みるか、あるいはプロテアソームなどの分解酵素系へと導いて細胞内分解処理を受けさせるという、タンパク質の品質管理ネットワーク全体において中心的な調整役を担っている。このシステムが正常に作動しなくなることは、神経変性疾患やがんをはじめとする多くの重篤な疾患の発症と深く関わっていることが明らかにされている。2

例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病などの神経変性疾患においては、特定のタンパク質が異常な立体構造をとり、脳内で不溶性の凝集体やアミロイド線維を形成することが病態の本質的要因となっている。分子チャペロンは、こうした異常なタンパク質の凝集を未然に防いだり、すでに形成されてしまった凝集体を解きほぐしたり、あるいは速やかに分解へと回すことで、神経細胞を毒性から守る生体内の防衛システムとして働いている。加齢に伴って分子チャペロンの機能や発現量が低下すると、こうしたタンパク質の品質管理能力が破綻し、異常なタンパク質が蓄積しやすくなるため、神経変性疾患のリスクが高まると考えられている。1

さらに、がん細胞の生存や増殖においても分子チャペロンは重要な役割を果たしている。がん細胞は常に活発な代謝や低酸素状態、栄養枯渇といった過酷なストレス環境にさらされており、その中で生き延びるために通常の細胞よりも多量の分子チャペロン(特にHsp90など)を発現している。Hsp90は、がんの発生や進展を促進する多数のシグナル伝達分子(キナーゼや受容体など)の立体構造を安定に保ち、その機能を維持する「マスターチャペロン」として機能している。そのため、分子チャペロンの機能を阻害する薬剤は、がん細胞の生存基盤を断つ新しいタイプの抗がん剤(分子標的薬)としての応用が期待され、現在も精力的な研究が進められている。1

このように、分子チャペロンは単に一つのタンパク質の形状を整えるだけの補佐役にとどまらず、タンパク質の生合成から品質管理、細胞ストレス応答、さらには疾患の病態制御にいたるまで、生命科学のあらゆる側面に深く関与する極めて多機能な生体分子群である。

参考文献・出典

  1. J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター: https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200906059286461919 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
  2. 厚生労働省 e-ヘルスネット: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-078.html ↩1 ↩2