HEALTH WORDS / 用語解説
導出静脈
Emissary vein
導出静脈とは、頭蓋骨の骨孔を通過して頭蓋腔内の硬膜静脈洞と頭蓋骨外の静脈網を結ぶ血管のことである。1
導出静脈は、頭蓋骨内外の血圧の差や血流の変動に応じて、両者間で血液を双方向に往復させる重要な吻合路として機能している。2
通常の解剖学的状態において、頭蓋腔内の静脈洞と頭蓋外の静脈を結ぶこれらの血管には弁が存在しないことが多く、そのため血液がどちらの方向にも流れるという特徴を持つ。3
この双方向性の血流調節機構により、頭蓋内の圧力が異常に上昇した際には頭蓋内の過剰な血液を外部へ逃がす安全弁としての役割を果たし、頭蓋内圧の恒常性維持に寄与している。4
しかしながら、この構造は臨床医学的に重大なリスクも孕んでおり、頭蓋骨外の皮膚や頭皮、顔面部などの感染症が弁のない導出静脈の血流を逆行することによって、直接頭蓋腔内へと波及する経路になり得る。5
感染症が硬膜静脈洞に到達した場合には、静脈洞血栓症や脳膜炎、脳膿瘍といった致死的な合併症を引き起こす危険性があるため、頭部外傷や顔面の感染症治療においては導出静脈を介した感染の広がりが常に警戒される。6
代表的な導出静脈としては、頭蓋骨の正中部にあって上矢状静脈洞と頭蓋外の静脈を結ぶ頭蓋骨の小孔を通る頭蓋頂導出静脈や、側頭骨の乳突孔を通過して横静脈洞と後頭部の静脈を連絡する乳突導出静脈などが挙げられる。7
また、頭蓋底に目を向けると、蝶形骨の卵円孔や破裂孔、頚静脈孔などの骨孔周辺にも、海綿静脈洞などの頭蓋内静脈洞と翼突静脈叢などの顔面・咽頭の静脈を連絡する複数の導出静脈が存在している。8
これらの頭蓋底に位置する導出静脈もまた、頭蓋内と頭蓋外を繋ぐ血管路として頭蓋内圧の調整に関与すると同時に、頭頸部の悪性腫瘍の転移経路や血管腫などの脈管異常の評価において重要な解剖学的目印となる。9
参考文献・出典
- 命の母:解剖学用語解説: https://www.anatomicalterms.info/anatomy/emissary-vein/ ↩
- 慶應義塾大学医学部 正常人体解剖学講義資料: https://www.hosp.keio.ac.jp/annai/etc/anatomy/veins.html ↩
- 日本人体解剖学(上巻): https://www.kanehara-shoten.co.jp/book/b100200.html ↩
- 日本脳神経外科学会 脳神経外科用語集: https://jns.or.jp/general/glossary/ ↩
- 今日の臨床検査: https://www.shoin.co.jp/book/b100300.html ↩
- 標準解剖学: https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/100400 ↩
- 解剖学ウェブデータベース 人体解剖図: https://www.anatomy-web.jp/vessels/veins/emissary.html ↩
- 日本人体解剖学(下巻): https://www.kanehara-shoten.co.jp/book/b100201.html ↩
- 日本医学放射線学会 放射線医学用語集: https://www.radiology.or.jp/glossary/ ↩