HEALTH WORDS / 用語解説
左心不全
左心不全とは、心臓の左心室のポンプ機能が低下し、全身へ十分な血液を送り出せなくなることによって肺静脈や肺毛細血管の圧力が上昇し、様々な症状を引き起こす臨床症候群である1。人間の心臓は全身から戻ってきた血液を右心房と右心室を介して肺へと送り出し、肺で酸素を取り込んだ血液が左心房および左心室に戻るという循環構造をとっているため、左心室の機能障害が生じると血液が肺の側へと鬱血する特徴を持つ1。
左心不全の主な原因には、高血圧、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)、心筋症、弁膜症などが挙げられる2。長期間にわたる高血圧や冠動脈疾患による心筋への虚血負荷は、左心室の心筋を肥大させたり収縮する能力を弱めたりすることで心機能の低下を招く2。高齢化に伴い心筋の柔軟性が失われることや拡張機能が低下することも、左心不全を引き起こす重要な要因となる1。
左心不全の代表的な症状は、肺の鬱血および水腫に起因する呼吸困難、息切れ、起坐呼吸、そして夜間発作性呼吸困難である2。労作時だけでなく、横になることで肺への静脈血の還流が増加し呼吸困難が悪化するため、夜間に上体を起こしていないと眠れない状態(起坐呼吸)がしばしば観察される1。その他にも、心拍出量の減少による全身の倦怠感、易疲労感、冷感、さらには脳血流の低下による意識障害や腎血流量の減少に由来する乏尿などが現れることがある2。
左心不全の診断においては、問診および身体診察に加えて、胸部X線検査、心電図検査、心エコー検査(超音波検査)、および血液検査が実施される2。特に心エコー検査は、左心室の収縮能(駆出率)や拡張能を評価し、左心不全の病態を把握するために不可欠な検査である2。また、血液検査における脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)やNT-proBNPの血中濃度測定は、心不全の診断および重症度判定、予後予測の指標として広く利用されている2。
左心不全の治療戦略は、薬物療法、非薬物療法(食事療法や運動療法、デバイス治療など)、および生活習慣の改善から構成される2。薬物療法では、心臓の負荷を軽減し予後を改善するために、ACE阻害薬、ARB、ARNI、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬などが用いられる2。さらに、肺鬱血や浮腫などの体液貯留の症状を速やかに軽減させる目的で利尿薬が投与される2。非薬物療法としては、塩分制限や水分制限を含む食事管理、医師の管理下で行われる心臓リハビリテーション、不整脈合併例に対するペースメーカー治療や植込み型除細動器(ICD)、両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)などが適応される2。左心不全は慢性疾患であり増悪と緩解を繰り返しながら進行することが多いため、病態の理解と継続的な医療介入、および自己管理の徹底が極めて重要である1。