HEALTH WORDS / 用語解説
歯科学
Dentistry
歯科学とは、口腔、顎、顔面およびこれらに関連する組織・構造の解剖、発生、生理、病理、予防および治療を科学的に究明し、臨床的な医療技術を実践する医学の専門分野である。1 ヒトの咀嚼、嚥下、発音といった極めて重要な生体機能を維持・回復させることが、歯科学の最大の目的である。2
歯科学の歴史は人類の歴史とともに古く、古代エジプトや古代ローマの遺跡からも歯痛に対する治療の痕跡や歯科材料を用いた修復の記録が発見されている。 近代に入り、自然科学の発展や麻酔科学の導入、細菌学の確立を経て、経験則に基づく手技から、根拠に基づく医療(EBM)を基盤とした高度な専門医療へと大きく進化を遂げた。 現在では、単に齲蝕(むし歯)や歯周病の治療を行うだけでなく、全身疾患との密接な関連を踏まえた口腔保健の管理や、QOL(生活の質)の向上に寄与する学問領域として位置づけられている。
歯科学の臨床および研究の領域は多岐にわたるが、主として以下のような専門分野に細分化されている。 保存修復学は、齲蝕や歯牙破折によって失われた歯質の形態と機能をコンポジットレジンや歯科用金属などの歯科材料を用いて修復する学問である。3 エンドドンティクス(歯内療法学)は、歯髄(神経)および根尖周囲組織の疾患の予防と治療を扱い、根管治療を通じて天然歯の温存を図る。4 歯周病学は、歯肉や歯槽骨など歯周組織に生じる炎症性疾患である歯周病の病因、病態、診断および治療を研究する。 補綴学(歯科補綴学)は、歯や顎骨が失われた部位に対して、クラウン、ブリッジ、義歯(入れ歯)やインプラントを用いて咀嚼器官の機能的・審美的回復を図る分野である。 口腔外科(歯科口腔外科)は、口腔、顎、顔面領域に発生する腫瘍、炎症、外傷、顎変形症などの外科的疾患を診断・治療する。 矯正歯科(歯科矯正学)は、不正咬合に対して矯正装置を用いて歯を移動させ、正しい噛み合わせと審美性を回復する。 小児歯科学は、乳歯の萌出から永久歯への生え変わり、すなわち成長発育期にある小児特有の歯科疾患の予防と治療を行う。 予防歯科学は、フッ化物応用やプラークコントロールなどを通じて、齲蝕や歯周病の発症を未然に防ぐことを目的とする。
近年では、デジタル歯科学の発展が目覚ましく、口腔内スキャナーを用いた光学印象の採用、CAD/CAMシステムによる補綴物の自動設計・製作、さらに3Dプリンターを応用した外科手術のシミュレーションなど、最先端の情報技術が臨床現場に深く統合されている。 基礎研究の領域においても、幹細胞を用いた歯髄再生や歯周組織再生療法といった再生医学との融合が進んでおり、失われた生体組織の完全な機能回復を目指した研究が精力的に行われている。 このように、歯科学は基礎的な生物学、材料科学、および最先端のエンジニアリングを統合した、総合的な臨床医学の一翼を担う重要な学問体系である。
参考文献・出典
- 厚生労働省 歯科医師国家試験出題基準: https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001147515.pdf ↩
- 日本歯科医学会 歯科学の定義: https://www.jda.or.jp/jads/about/definition/ ↩
- 大阪大学大学院歯学研究科・歯学部 保存修復学分野: https://www.dent.osaka-u.ac.jp/research/operative-dentistry/ ↩
- 日本歯内療法学会 歯内療法とは: https://www.jts.gr.jp/general/about/ ↩