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HEALTH WORDS / 用語解説

転写抑制因子

Transcription repressor

転写抑制因子とは、DNAからmRNAへの転写を負に調節し、遺伝子発現を抑制あるいは停止させるタンパク質の総称である。1

真核生物における遺伝子発現の調節は極めて複雑であり、その中で転写の制御は最も主要な段階の一つである。転写因子は、DNA上の特定の配列であるプロモーターやエンハンサーなどの調節領域に結合して働く。そのうち、転写を促進するものを転写活性化因子と呼ぶのに対し、転写を妨げる働きを持つものが転写抑制因子である。2

転写抑制因子が遺伝子発現を抑制するメカニズムには、主にいくつかの異なる分子機構が存在する。第一に、DNA上の特定の塩基配列(サイレンサーなど)に直接結合し、RNAポリメラーゼや他の転写因子がプロモーター領域へ集合することを物理的に阻害する競合的阻害メカニズムがある。第二に、転写活性化因子と直接相互作用してその機能を不活化したり、転写因子がDNAに結合するのを妨げたりする機構が挙げられる。3

さらに、多くの転写抑制因子は単独で働くのではなく、他のタンパク質をリクルートして複合体を形成することで転写を抑制する。その代表的な例が、ヒストンの化学修飾を変化させる酵素の誘導である。真核生物のDNAはヒストンというタンパク質に巻きついてクロマチンを形成している。転写抑制因子は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)などのクロマチン構造修飾因子を標的領域に呼び込む。ヒストンが脱アセチル化されると、DNAとヒストンの結合がより強固になり、クロマチンが凝縮したヘテロクロマチン様の状態へと変化する。その結果、転写に関与する分子がDNAへアクセスできなくなり、遺伝子発現が長期にわたって抑制されることになる。4

このように、転写抑制因子は細胞の分化、個体発生、細胞周期の制御、さらには外界からの刺激に対する応答など、様々な生物学的プロセスにおいて極めて重要な役割を果たしている。細胞の種類や状態に応じてどの遺伝子をオンにし、どの遺伝子をオフにするかを精密にコントロールするためには、転写活性化因子と転写抑制因子のバランスが不可欠である。このバランスが破綻すると、がんをはじめとする様々な疾患を引き起こす原因となることが知られており、分子生物学や医学の分野において活発に研究が進められている。5

参考文献・出典

  1. 生命科学データベースプロジェクト: https://biosciencedbc.jp/about/ ↩
  2. 独立行政法人 科学技術振興機構: https://www.jst.go.jp/ ↩
  3. 国立国会図書館インターネット資料収集事業: https://warp.ndl.go.jp/ ↩
  4. 厚生労働省 科学研究費補助金等データベース: https://kaken.nii.ac.jp/ ↩
  5. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構: https://www.pmda.go.jp/ ↩