HEALTH WORDS / 用語解説
DNAメチル化
DNA methylation
DNAメチル化とは、エピジェネティクスを構成する主要な分子メカニズムの一つであり、DNAの塩基配列を変化させることなく遺伝子発現を制御する化学修飾のことである。1 哺乳類においては、主としてシトシン塩基のピリミジン環の5位炭素原子へのメチル基の付加として生じ、5-メチルシトシンが形成される。2
この化学修飾は、ゲノム全体にランダムに分布するのではなく、シトシンとグアニンがリン酸ジエステル結合を介して連続して並ぶCpG配列(CpGサイト)の領域に高頻度で認められる。1 ゲノム上の多くのCpG配列はメチル化されている一方で、遺伝子の転写開始点近傍に高密度に存在する「CpGアイランド」と呼ばれる領域は、通常の状態では非メチル化状態に保たれている。2
CpGアイランドがメチル化を受けると、一般的に転写因子のDNAへの結合が阻害されるか、あるいはメチルCpG結合タンパク質などのタンパク質がリクルートされる。1 これによりヒストン修飾やクロマチン構造の凝縮が引き起こされ、遺伝子発現が長期的に抑制・不活性化される仕組みとなっている。2
このDNAメチル化パターンは、細胞分裂の際にも正確に娘細胞へと遺伝継承される性質を持つ。1 この維持機構はDNAメチル基転移酵素であるDNMT1などの酵素群によって担われており、受精卵から多様な細胞や組織が分化・形成される個体発生の過程において、細胞のアイデンティティを安定に維持するために不可欠な役割を果たしている。2
また、DNAメチル化はゲノムインプリンティングやX染色体不活性化といった、哺乳類特有の厳密な遺伝子発現制御メカニズムにも深く関与している。1 例えば、ゲノムインプリンティングにおいては、父親由来あるいは母親由来の特定のアレルの一方が選択的にメチル化を受けることで、片親からの親由来特異的な遺伝子発現が実現される。2
一方で、DNAメチル化の異常は、様々な疾患の発症や進展に強く関与していることが知られている。1 がん細胞においては、がん抑制遺伝子のプロモーター領域にあるCpGアイランドで異常な高メチル化(過剰メチル化)が生じ、必要な遺伝子発現が不当に抑制される現象が広く観察される。2 同時に、ゲノム全体における低メチル化も進行し、染色体不安定性を引き起こす要因となることが明らかにされている。1
このように、DNAメチル化は遺伝情報の読み出し方を動的に調節する極めて重要な生体防御および発生制御システムであり、分子生物学、発生生物学、腫瘍学などの幅広い医学・生物学分野において中心的な研究対象となっている。2