HEALTH WORDS / 用語解説
肋鎖靭帯
肋鎖靭帯とは、鎖骨の内端と第一肋骨の上面を結ぶ、強力で厚い靭帯である。1 胸鎖関節の補強および鎖骨の動きを制限する重要な役割を担っている。2
解剖学的に肋鎖靭帯は、鎖骨下面の肋鎖靭帯圧痕(鎖骨の胸骨端近くにある粗面)と、第一肋骨の前端付近との間に位置している。1 この靭帯は通常、前葉と後葉の2つの線維束に分かれており、その走行方向は互いに交差している。3 前方の線維束は外側上方へ向かい、後方の線維束は内側上方へ向かうため、鎖骨の過度な運動に対して多方向からブレーキをかける構造となっている。2
胸鎖関節は上肢と体幹を繋ぐ唯一の骨格性の連結であるが、その構造上、鎖骨は肩甲骨の運動に伴い挙上、下制、前方突き出し、後方引き込み、および回旋という複雑な動きを行う。3 肋鎖靭帯は、これら多様な関節運動の中でも特に鎖骨が過度に挙上するのを強力に阻止する主要な制動装置として機能する。1 また、鎖骨が第一肋骨から過度に離れるのを防ぎ、胸鎖関節の脱臼を予防する上で極めて重要な安定化機構を提供している。2
臨床医学および整形外科学の領域において、肋鎖靭帯は胸郭出口症候群の発生機序に関連して言及されることがある。4 鎖骨と第一肋骨の間隙である肋鎖間隙には、腕神経叢や鎖骨下動脈、鎖骨下静脈といった重要な神経や血管が走行している。2 何らかの原因によって肋鎖靭帯が肥厚したり、鎖骨や第一肋骨の形態に異常が生じたりすると、この肋鎖間隙が狭小化する。4 その結果、通過する血管や神経が圧迫され、上肢の痺れ、疼痛、脱力感、あるいは血流障害といった臨床症状を引き起こす要因の一つとなる。4
さらに、鎖骨骨折や胸鎖関節脱臼などの外傷性疾患の診断や治療においても、肋鎖靭帯の損傷状態は予後を左右する重要な因子となる。4 胸鎖関節の完全脱臼が生じる際には、この肋鎖靭帯が断裂していることが多く、関節の整復位保持や靭帯修復の適応を評価する上で解剖学的知識が不可欠とされる。4
参考文献・出典
- 日本人体解剖学 上巻: https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524229461/ ↩1 ↩2 ↩3
- 標準解剖学: https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/30678 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
- 標準理学療法学 専門分野 基礎理学療法学: https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/35165 ↩1 ↩2
- 標準整形外科学: https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/33120 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4 ↩5