HEALTH WORDS / 用語解説
運動記憶
Motor memory
運動記憶は陳述記憶とは異なる非陳述記憶(あるいは手続き記憶)のカテゴリーに分類され、自転車の乗車、楽器の演奏、タイピングなどの身体動作を無意識的かつ滑らかに遂行する能力の基盤となる。1
この記憶の形成には、大脳皮質の運動野や補足運動野だけでなく、小脳および大脳基底核といった脳の深部に位置する構造が複雑に関与していることが知られている。1
小脳は運動の誤差を検出して運動プログラムを適応・修正する役割を担っており、運動技能の学習初期において特に重要な機能を果たしている。1
一方、大脳基底核は運動の選択や自動化に関与しており、訓練を重ねて運動記憶が固定化されるにつれて、行動の自動的な遂行を支えるようになる。1
運動学習の過程においては、練習の直後に運動記憶が一時的に不安定な状態から安定した状態へと移行する固定化(コンソリデーション)というプロセスが存在する。1
この固定化のプロセスは、睡眠をとることによって効率的に促進されることが多くの研究によって示されており、神経回路レベルでの可塑的変化が関与していると考えられている。1
また、一度獲得された運動記憶は長期にわたって保持される特徴があり、長期間練習していなかった運動であっても、再会した際には比較的短時間でスキルを思い出すことができる。1
このように、運動記憶は人間の日常生活やスポーツ、芸術活動などの身体的な営みにおいて極めて中心的な役割を果たしている神経科学的な機能である。1
近年のリハビリテーション科学や脳神経外科学の領域においても、脳卒中などの疾患によって運動機能が障害された患者の機能回復訓練において、運動記憶のメカニズムを応用したアプローチが広く研究されている。2