HEALTH WORDS / 用語解説
遺伝的距離
Genetic distance
遺伝的距離とは、集団間あるいは個体間における遺伝子的な差異の大きさを定量的に表した指標である。1 生物の進化的な系統樹の構築や、集団遺伝学における遺伝的変異の解析において中心的な役割を果たしている。2
遺伝的距離を計算する際には、対立遺伝子の頻度や、DNA配列上の塩基配列の置換数などがデータとして用いられる。 集団間で比較を行う場合、地理的な隔絶や自然選択、遺伝的浮動などの進化的力がどのように作用しているかを推測するための基礎データとなる。 例えば、地理的隔離が進んだ集団同士では、遺伝的漂流や突然変異の蓄積によって、世代を経るごとに遺伝的距離が拡大する傾向が認められる。
分子生物学の発展に伴い、タンパク質のアミノ酸配列やゲノム上の塩基配列を直接比較することが可能になった。 これにより、目に見える形質だけではなく、遺伝子レベルでの微細な差異に基づいた高精度な遺伝的距離の算出が行われている。 代表的な指標としては、ネイの遺伝的距離(Nei's standard genetic distance)やプール発散(Fixation index: Fst)などが広く知られており、それぞれの目的に応じて使い分けられている。
系統樹解析において、遺伝的距離は分岐した種や系統が共通の祖先からどれほどの時間をかけて離れていったかを推定する分子時計の概念とも深く結びついている。 集団遺伝学の分野では、人類学における人類の進化や移動の歴史を紐解くためにも活用されており、世界各地の集団間における遺伝的距離をマッピングした研究が行われている。 このように、遺伝的距離は生物多様性の維持機構の解明や、保全遺伝学における絶滅危惧種の管理計画策定など、幅広い医学および生物学の領域で不可欠な概念となっている。
参考文献・出典
- 国立遺伝学研究所 遺伝学辞典: https://nig-ch.nig.ac.jp/index.html ↩
- J-STAGE 遺伝学的距離の推定法: https://www.jstage.jst.go.jp/article/transjsprs/48/5/48_5_398/_pdf/-char/ja ↩