HEALTH WORDS / 用語解説
遺伝資源
Genetic resources
遺伝資源とは、遺伝の機能をもつ単位を有する植物、動物、微生物その他の由来物に由来する物質であって、実用的または潜在的な価値を有するものをいう。1
遺伝資源は、生物多様性条約および名古屋議定書の枠組みにおいて重要な対象とされており、地球上の生態系が保持する多様な遺伝情報の保全と持続可能な利用の基盤をなすものである。2
近年の分子生物学やゲノム科学の急速な発展に伴い、遺伝資源は単なる生物個体や組織の採取にとどまらず、DNAやRNAなどの核酸レベルでの解析対象として極めて高い重要性を持つに至っている。農林水産物の品種改良において、耐病性や環境適応性などの有用な形質を付与するための遺伝子の供給源として活用されるほか、医薬品の開発分野においても、天然物化学的手法を通じて新規化合物や生理活性物質を探索するための重要な資源となっている。
しかし、遺伝資源の利用をめぐっては、資源の多くが生息する途上国などの提供国と、それを研究・開発する先進国などの利用者の間における不均衡が長年の課題となっていた。こうした背景から、1992年に採択された生物多様性条約では、遺伝資源の保存と持続可能な利用に加え、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(ABS:Access and Benefit-Sharing)が主要な三つの目的として掲げられた。1
さらに、2010年に採択され2014年に発効した名古屋議定書により、遺伝資源の取得に関する国内法上の手続や、利益配分に関する契約の透明性を確保するための国際法的な枠組みがより具体化された。これにより、遺伝資源を取得する際には事前協議と相互に合意する条件に基づく承認が必要とされるなど、適正な手続の踏破が研究者や企業に求められるようになっている。2
学術および産業の分野において、遺伝資源の管理と流通は、情報科学の進展に伴うデジタル・シーケンス・インフォメーション(DSI:デジタル配列情報)の扱いも含めて、国際的な議論の継続的な焦点となっている。遺伝子バンクやジーンバンクなどの公的機関による収集、保存、特性評価の体制整備は、将来の食料安全保障や感染症対策をはじめとする人類の課題を解決するための基盤として、今後ますます重要性が高まると考えられている。
参考文献・出典
- 生物の多様性についての条約: https://www.env.go.jp/nature/biodic/conventions/cbd/text.html ↩1 ↩2
- 生物の多様性条約の名古屋議定書: https://www.env.go.jp/nature/biodic/abs/law/index.html ↩1 ↩2