HEALTH WORDS / 用語解説
BRG1
BRG1とは、哺乳類におけるクロマチンリモデリング複合体の主要な触媒サブユニットであり、ATP依存性クロマチンリモデリング因子の一つとして機能する遺伝子およびそれがコードするタンパク質のことである1。正式な遺伝子名称はSMARCA4であり、SWI/SNF複合体の構成要素として転写制御やDNA修復などの多様な細胞内プロセスにおいて中心的な役割を担っている2。
BRG1タンパク質は、ATP分解酵素(ATPase)ドメインを有しており、ATPを加水分解する際に放出されるエネルギーを利用してヒストンとDNAの結合状態を変化させる1。これにより、通常は凝縮されていてアクセスできないクロマチン構造を緩め、転写因子やRNAポリメラーゼなどのタンパク質が特定のDNA配列へ結合しやすくなる環境を整えるエピジェネティクス的な制御を行っている2。
ヒトのゲノムにおいて、BRG1をコードするSMARCA4遺伝子は様々な組織で広く発現しており、胚発生、細胞分化、細胞周期の進行、および細胞増殖の維持に不可欠である1。発生生物学の分野では、個体の正常な形態形成や幹細胞の分化プログラムの実行においてBRG1が必須の因子であることが示されている1。
一方で、BRG1はがん抑制遺伝子としての側面も強く持っている。多くのヒト悪性腫瘍において、SMARCA4遺伝子の変異、欠失、あるいは発現低下が頻繁に観察される1。特に、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、髄芽腫、および非常に稀で悪性度の高い卵巣小細胞がん(ハイパーカルセミック型)などでは、BRG1の機能喪失が腫瘍化の直接的な原因となることが明らかにされている1。
このように、BRG1は遺伝子発現の網羅的な制御を通じて細胞の運命決定を司る極めて重要な分子であり、その機能異常はがんをはじめとする様々な疾患の発症や進展に深く関与していることから、分子標的薬の開発など医学および創薬の分野において活発に研究が進められている2。