HEALTH WORDS / 用語解説
Elk1
Elk1とは、ETSドメイン家族に属する、転写因子の一種である。1 MAPK/ERKシグナル伝達経路の下流に位置し、細胞の増殖や分化、生存などの細胞応答を制御する重要なタンパク質として機能している。2
ヒトのゲノムにおいては、ELK1遺伝子はX染色体上に位置している。1 この遺伝子によってコードされるタンパク質は、DNA上の特定の配列である血清応答要素(SRE: Serum Response Element)に結合する能力を持つ。2 しかし、Elk1単独では転写活性を十分に発揮することができず、血清応答因子(SRF: Serum Response Factor)と複合体を形成することによって、ターゲットとなる遺伝子の転写を効率的に促進する。2
分子生物学的な視点において、Elk1はリン酸化を受けることでその活性がダイナミックに調節される。2 細胞外からの増殖因子やストレス刺激が細胞膜上の受容体を介して伝達されると、細胞質内でキナーゼのカスケードが活性化される。1 具体的には、ERK(Extracellular signal-regulated kinase)、JNK(c-Jun N-terminal kinase)、p38といったMAPKファミリーの酵素が、核内へ移行したあるいは核周辺に存在するElk1の特定のアミノ酸残基を直接リン酸化する。2 このリン酸化イベントがトリガーとなり、Elk1の転写活性化ドメインが機能し、RNAポリメラーゼによる転写開始複合体の形成が誘導される仕組みになっている。2
Elk1が制御する下流の遺伝子群には、細胞周期の進行に深く関わる即時型初期応答遺伝子などが含まれており、神経系におけるシナプス可塑性や記憶の形成過程、さらには腫瘍細胞の増殖や生存メカニズムにおいても重要な役割を果たしていることが研究されている。1 このように、Elk1は細胞内外の情報伝達を遺伝子発現へと変換するための中核的な分子スイッチとして位置づけられている。2