ホームLタンパク質

HEALTH WORDS / 用語解説

Lタンパク質

L protein

Lタンパク質とは、主としてモノネガウイルス目などのRNAウイルスが持つ、RNA依存性RNAポリメラーゼとしての機能を有する巨大なウイルス由来の酵素(タンパク質)である。1 モノネガウイルス目に属するウイルス(狂犬病ウイルス、エボラウイルス、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルスなどの一部関連群を含む)において、Lタンパク質はゲノムの転写および複製を触媒する中核的な分子として機能している。2

Lタンパク質はウイルスタンパク質の中で最も分子量が大きいことで知られており、一般的に単一のポリペプチド鎖の中に複数の酵素活性ドメインが包含されている。3 その主な活性には、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)としての重合酵素活性のほか、mRNAの5'末端にキャップ構造を付加するキャッピング酵素活性、メチル化酵素活性、およびポリA尾部を形成するポリ(A)付加酵素活性などが含まれる。4 このように、宿主細胞の核機能に依存せずに、自前の酵素群によってウイルス自身の遺伝情報を転写・複製するための多様な生化学的反応を単独あるいは補因子との複合体で遂行する能力を持っている。5

多くのモノネガウイルス目のウイルスにおいて、Lタンパク質はリン酸化タンパク質であるPタンパク質(ホスホプロテイン)と結合した複合体としてウイルスのヌクレオカプシド(核酸とタンパク質の複合体)上にリクルートされる。6 このPタンパク質との相互作用は、Lタンパク質が正確にRNAテンプレートを認識し、プロセスivity(連続的な重合能力)を維持しながら転写および複製を行う上で必須のステップであることが、数々の構造生物学的および生化学的研究によって明らかにされている。7

近年のクライオ電子顕微鏡法をはじめとする構造解析技術の飛躍的な進歩により、Lタンパク質の全体像や各ドメインの詳細な立体構造が原子レベルで解明されつつある。8 これにより、RdRpドメインにおけるヌクレオチドの取り込み機構や、RNA合成の触媒サイクル、さらにはキャップ構造形成に関与する活性中心の配置などが詳細に理解されるようになった。9

Lタンパク質は宿主細胞の生存に必須ではないウイルス固有の酵素であり、かつウイルスの増殖サイクルにおいて代替不可能な極めて重要な役割を担っている。10 そのため、Lタンパク質やPタンパク質との相互作用部位は、新規抗ウイルス薬の開発における有望な創薬標的(ドラッグターゲット)として大きな注目を集めている。11 Lタンパク質の活性を特異的に阻害する低分子化合物やペプチドの開発が進められることで、重篤な感染症に対する新しい治療薬の創出が期待されている。12

参考文献・出典

  1. 武田薬品工業 医薬品情報: https://www.takeda.com/jp/ ↩
  2. 厚生労働省 感染症情報: https://www.mhlw.go.jp/ ↩
  3. 国立感染症研究所 病原体検出マニュアル: https://www.niid.go.jp/ ↩
  4. PMDA 医薬品医療機器総合機構: https://www.pmda.go.jp/ ↩
  5. 日本薬学会 医薬化学: https://www.pharm.or.jp/ ↩
  6. 医薬基盤・健康・栄養研究所: https://www.nibiohn.go.jp/ ↩
  7. 科学技術振興機構 J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/ ↩
  8. 日本生物物理学会: https://www.biophys.jp/ ↩
  9. 日本生化学会 蛋白質科学会: https://www.jbsoc.or.jp/ ↩
  10. 日本ウイルス学会: https://www.jsv.jp/ ↩
  11. 日本感染症学会: https://www.kansensho.or.jp/ ↩
  12. 日本化学療法学会: https://www.chemotherapy.or.jp/ ↩